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劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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SCREEN124 マネーボール

 理論じゃない人間的な球界裏事情ドラマ 公式サイト

 今年10月5日、アップルのスティーブ・ジョブズ氏が亡くなりました。
享年56歳、まだまだ活躍できる年齢での死去が惜しまれます。
 彼のキャラクターは強烈で、毀誉褒貶の激しい人でした。
私には、ジョブズは技術者というより、
(いろいろな意味で)アーティスト的感覚を持った辣腕経営者、
魔術的な能力を持ったプレゼンの天才といったイメージがあります。
個人的には、その稀有な人物像は興味を惹かれますが、
一緒に仕事はしたくないなぁ、というのが正直なところです(笑)。
 ジョブズがペプシ・コーラのスカリーをアップルに引き抜くとき、
「一生、砂糖水を売っていたいか、それとも世界を変えたいか」
と言ったのはよく知られた話です。
ジョブズはコンピューターが社会を変え、
若い世代が古い世代と入れ替わることに価値を見出していたようです。
映画「マネーボール」の主人公ビリー・ビーンも、
尖鋭的野球理論で旧態依然だったメジャー・リーグの世界を変えた男でした。

 もっとも実際のビリー・ビーンの動機は球界を変えたいというよりも、
貧乏球団が潤沢な資金を持つ強豪に勝つにはどうすればいいか、
が発端でした。
 「マネーボール」いうタイトルや、
予告編であったように、チームの戦略を考えても
実際の試合は見ないというスタンスから、
主人公はお金や理論でみな割り切ってしまうドライな人間で、
そんな人物像を描くような映画かと思っていましたが、
(脚本家の一人は「ソーシャル・ネットワーク」のアーロン・ソーキン)
実際は違っていました。

 ビリー・ビーンは元選手であり、当初活躍を期待されながら
実績を残せず、ジェネラル・マネージャーに転身した経緯がありました。
映画の中で彼は、過去に多額の契約金に惹かれ、大学進学せずに球界に入ったことに
後悔に似たわだかまりを持ち続けます。
 ビリー・ビーンは球団GMとしては奇妙な2つの習慣を持っています。
 1.自チームの試合を見ない。
 2.自チームの選手とは親しくしない。
映画を観ていくと、実はこれには彼独自の人間臭い理由があるのが判明します。
そう、この映画はとても人間的なのです。
登場する人物はみな、欠陥や問題を抱えています。
そんな彼らが敗者復活していくところがいいんです。
 故障によって選手生命が危うくなっていた捕手が
突然自宅にやって来たビリーから一塁手として契約のオファーを受けた後に
家族とそっと抱き合うところなどは感動的です。

 でもそこはやっぱりアメリカ社会、選手を解雇するのもドライで、
シーズン中でも まるでカードを交換するように簡単に
球団間で選手をトレードする様子に驚かされました。
厳しく能力を問われるプロの世界だから尚更なんでしょう。
ビリーが獲得した選手を起用しない監督との駆け引きも面白いです。
フィリップ・シーモア・ホフマンが「カポーティ」とは打って変わって
いかにもメジャー・リーグの監督といった雰囲気で好演してます。

 ジョブズはスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチを、
影響を受けた本の一節を引用し、
 "Stay Hungry. Stay Foolish."
 (貪欲でいろ、無謀でいろ)
と言って終えました。
 ビリー・ビーンも、強豪球団から高報酬の誘いを受けたとき、
傍から見るとfoolishな選択をします。
でもそれは彼らしい人生観に基づく、彼にとっては自然な選択でした。
                     (☆☆☆☆)
by am-bivalence | 2011-12-31 00:14 | 人間ドラマ | Comments(0)