劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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screen63 ノーカントリー

いつ襲ってくるかわからない死をめぐる秀作スリラー 公式サイト

 かつて映画には、ピカレスク物とか、
バイオレンス映画とかいったジャンルが一定の人気を保っていました。
「俺たちに明日はない」とか、
サム・ペキンパー+スティーブ・マックイーンの「ゲッタウェイ」、
ギャング物ではチャールズ・ブロンソン「バラキ」などなど。
日本でいえば深作欣二の任侠物とか、
松田優作「蘇る金狼」なんていったところでしょうか。
 しかし、「スターウォーズ」の大ヒットで、
映画は見たことのない映像をSFXを駆使して
ティーン・エイジャー達に見せる健全な娯楽になり、
バイオレンス映画は衰退していきます。

 それでもバイオレンス映画は途絶えたわけではなく、
このコーエン兄弟の「ノーカントリー」も、
そんなバイオレンス映画の脈流が生きています。
 ただ「ノーカントリー」が違うのは、
マックイーンのようなヒーローがいないこと。
そして、暴力よりも知性を感じさせることではないでしょうか。
 例えば、主人公モスが麻薬組織に追われて川に飛び込み、
下流に泳ぎ着いた後、追ってきた猟犬を拳銃で迎え撃とうとするシーン、
濡らしてしまった拳銃の扱い方には、なるほどと感心させられます。
夜の街で、殺し屋シガーとの銃撃戦の仕方なども、
ベトナム戦争を生き抜いてきたモスらしい、
考えた戦い方をしています。

 しかし何と言ってもこの映画の一番の見所は、
最悪の殺し屋、シガーの恐ろしさ、不気味さでしょう。
無感情に、どんな相手も平然と殺してしまう殺し屋。
コーエン兄弟の演出は冴えわたっています。
いつ殺人者の牙を剥くか分からないシガーと店主の会話の緊張感、
容赦なく撃ってくる、姿の見えない殺し屋相手に応戦する恐怖など、
シガーの絡む場面はどれも、緊迫感がみなぎっています。
 シガー演じるハビエル・バルデムは
「海を飛ぶ夢」の全身不随の主人公を演じた俳優で、
とても同じ人が演じているとは思えない変貌ぶりです。

 原作のタイトルは「血と暴力の国」だそうで、
これがこの映画に含まれたテーマをよく表しています。
最後、追われる者と追う殺し屋、その二人を追う保安官の
三つ巴の戦いになるのかと思えば、
あっさり観客の期待を裏切る意外な結末が待っていて、
そこがなんとも文学的なように感じました。
 劇中語られる、簡単に人を殺す最近の犯罪の異常性や、
最後に保安官の語る夢の光景などで、
映画に社会批判的、哲学的な意味を含ませていて、
単なるスリラーに終わらなかったのが、
アカデミー作品賞を取った秘訣なんでしょう。

 まあ、難解な哲学的意味はよく解らなくても、
映画的面白さを十分楽しめる作品でした。
                       (☆☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-05-15 23:22 | サスペンス・スリラー | Comments(0)