劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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screen97 羅生門 デジタル完全版

 「藪の中」にこんな解釈があったのか  公式サイト

月に一度の映画の日、何か面白い映画はないかと探していたら、
新宿で「羅生門 デジタル完全版」を限定公開しているのが目に止まりました。

 「羅生門」は言わずと知れた黒澤明の古典的名作です。
大映の資産を買い取った角川映画が、原版の劣化がひどかった「羅生門」を
各種機関と提携して 複数の上映プリント等から完全デジタル修復したので、
それを限定公開した、というわけです。
 どんな修復だったのかは、2月に発売されるブルーレイの宣伝サイト
一端を見てもらうとして、
「羅生門」のオリジナルネガは諸般の事情で廃棄され現存せず、
上映プリントも残っているものが意外に少なかったそうで、
修復はかなり苦労したようです。

 実際に観てみると、像、音声とも鮮明で、古さを全く感じさせませんでした。
随分前ですが、「七人の侍」のリバイバル上映を観た時は
音声が一部かなり不鮮明だったことを思うと、格段の差です。
 ただ完全版といっても、カットされたシーンが追加されているわけではないそうです。

 「羅生門」は恥ずかしながら、私はちゃんと観たことがありませんでした。
何十年も前に、テレビ放送していたのを断片的に観た覚えがあるのですが、
当時は芥川龍之介の原作も読んでいなかったので、
不条理な映画としか印象にありませんでした。

 芥川の原作「藪の中」自体、食い違う証言に、
人間行動の真相とは不可知なものだというのがテーマと言われていたので、
そんな映画だったと決め付けていたのですが、
今回改めて観て、ぜんぜん違う映画だったことを知りました。
 映画「羅生門」で黒澤監督らは、芥川の原作の裏に隠された真相を推理し、
それを映画化していました。

 原作では、強盗、暴行を働いた多襄丸の証言、
暴行された女の証言、暴行された女の夫で死んだ侍の霊の証言があり、
どれも人殺しをしたのは自分であると主張して、
誰が犯人か分からぬまま終わっています。
 「羅生門」では、ここまでは原作をほぼ忠実に描き、
この後、第四の証言者として、きこりを登場させます。
第三者の目撃として、実際はこんなことが起こったのだというのを
提示して見せるのです。

 これはおそらく、当事者3人の証言が、
盗人は盗人らしくすごんで見せ、女は貞淑さを装い、
侍は自身の不甲斐なさを嘆いてみせるといった、
それぞれ自分を演出していることに気付いたからではないでしょうか。
 黒澤監督らは「藪の中」に、事実の不可知ではなく、
自分を正当化するためには、意識するしないに関係なく、
都合よく事実を湾曲してしまう人間の業を見たのでしょう。

 ただ、きこりも最後で暴露されるように、
完全に第三者というわけではありません。
彼の証言も何らかのバイアスが掛かっている、ということで
真相はやはり分からないという含みを残したのでしょうか。

 ラストはきこりが捨て子を引き取っていくことで、一抹の救いを見せて終わります。
しかし、ここで私が引っかかったのが、タイトルの「羅生門」。
同名の芥川の名作短編「羅生門」は、
羅生門の上での男と老婆のやり取りから、
ころころ変る人間心理を描いたものなのです。
 罪を悔いて子供を引き取ったきこりの決心が
いつまでも変らないのだろうかと疑問を呈しているようにも。。。
と考えるのは、うがち過ぎですかね。
               (☆☆☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-12-03 21:37 | 時代劇 | Comments(0)