劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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screen100 アラビアのロレンス 完全版 ニュー・プリントバージョン

 青年の崇高な夢とその挫折を描いた、不朽の名作  公式サイト

 映画ファンなら誰でも、"生涯ベストワン映画"というものがあるのではないでしょうか。
"生涯"はちょっと大げさかもしれませんが、今まで観てきた中で
一番よかったと思う映画。。。私もあります。
 それがこの「アラビアのロレンス」です。

 映画「アラビアのロレンス」は、
T.E.ロレンスという実在の人物を描いた伝記映画であり、
砂漠の民を率いて戦った英雄物語であり、
第一次大戦での砂漠の戦闘を描いた戦争スペクタクル映画でもあります。
でも私は「アラビアのロレンス」は、"青春映画"だと思っています。
一人の青年が抱いた理想と夢、そしてその挫折を描いた青春映画だと。
(挫折する映画が好きだとは、我ながら屈折しているかとも思いますが(苦笑)。)

 ロレンスの描いた夢は、アラブ民族に自由と融和をもたらすことでした。
十字軍に傾倒し、若い頃から考古学調査で中東を巡り、
厳しくも美しい砂漠とそこに住む民に親しみを感じたロレンスは、
当時、大国に支配されていたアラブを独立させることに注力します。

厳しい自然の中で生きるベドウィンは、
砂漠で置き去りになった者は仕方なく見殺しにするしかなく、
部族間の争いも絶えず、殺人も厭いません。
 ロレンスはそんな現実に果敢に抗って、
砂漠に取り残された仲間を救出に行き、
部族抗争を抑えるために自ら手を下すことまでします。
潔癖なロレンスは、第一次大戦下の軍属でありながら流血を嫌っていたのですが。。。
 慕ってついてきた少年達を力及ばず砂漠で失った時には
少年のように心を痛めるロレンス。
(ただし、彼の反応は彼の別面も含めてであるのが後に分かってきます)
そんな人間像は「風の谷のナウシカ」のナウシカを見るようです。
(と言うより、ナウシカにロレンス像の影響が見えると思うのですが)

 ただこの映画のすごいところは、そこにとどまらず、
人間ロレンスを高潔な君子のままで終わらせなかったことです。
アカバ攻略までなら普通の英雄物語だったのですが、
映画は更にロレンスの複雑な内面に踏み込み、
そこからある種、普遍的な人間像も浮き出してみせるのです。

 例えば、映画最初でロレンスはベドウィンの案内人とこんな会話をします。
イギリスは肥えた土地に肥えた人々が住む国だと言うロレンスに対し、
ベドウィンが、でもあなたは太っていないと言うと、ロレンスはこう答えます。
 "No, I'm different.(そう、僕は違う)"
 何気ない会話ですが、
これはロレンスがちょっと変わり者である自分を自嘲しているとともに、
自分が人とは違う何者かなんだという、若者らしい気負いを
端的に表したセリフではないでしょうか。

(以降、ネタバレを意識せずに書いています。気にされる人は飛ばして下さい。)

 また映画冒頭ロレンスがやって見せる、火の着いたマッチ棒を持ち続けるという特技は、
私はロレンスの"精神は肉体の限界を超えられる"という信念を
表しているんじゃないかと思います。
これは映画後半で「水の上でも歩いてみせる」といった、
彼の超人願望とでも言うべき言動、行動に繋がっていきます。
それは異常さを通り越して、滑稽でさえあります。
 デラアでの事件で自分も普通の人間であると思い知らされた時、
その願望の反動が、彼が壊れていくきっかけにもなるのです。

 映画は更に彼の心の奥に潜んだ闇にも触れています。
部族間の争いを招いた部下を自ら処刑したことを、
後に彼はカイロで「処刑を楽しんでいた」と告白しているのです。
自分の奥底にある暴力性に戸惑うロレンス。
私にはそれは、彼固有の異常性ではなく、彼のイノセントさからくる、
自分にも本能的な暴力の衝動があったことへの恐れと思えるのです。
 高潔さと奥底にあるダークさ、自意識過剰、自己陶酔、
才気を自覚するがゆえの高慢さと、自身の全能感から起こす無謀な行動、
T.E.ロレンスという稀有で極端な人物像から、
一つの典型的な人間心理が浮かび上がってきます。

 ロレンスの挫折は内面的なものに加え、
社会の現実によって更に助長されていきます。
いつの間にか国家間の駆け引きに巻き込まれ、利用されるロレンス。
(このときのイギリスの二枚舌外交が後々の中東紛争につながっていく)
イギリスを差し置いてダマスカスに入城しても、
部族間のエゴを前にして、疲弊するロレンス。
 最後の戦闘では、「清潔だから」好きだった砂漠を血で穢し、
お気に入りの白い民族衣装を血まみれにするロレンスが痛ましいです。
 理想と現実の大きな壁(老獪な社会の壁)に挫折していく姿に、
年配の人なら60年代の学生運動を重ねたりするのではないでしょうか。

 「アラビアのロレンス」については、まだ語り尽くせませんが、
「アラビアのロレンス」は観るたびに別の見方ができて、新しい発見があります。
それはちょうど、優れた文学が読む年齢によって解釈が変わってくるように、
「アラビアのロレンス」も観る年齢によって見方が違ってくるようです。
名作です。
         (☆☆☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-12-25 23:57 | 人間ドラマ | Comments(0)