劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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カテゴリ:時代劇( 5 )

 「藪の中」にこんな解釈があったのか  公式サイト

月に一度の映画の日、何か面白い映画はないかと探していたら、
新宿で「羅生門 デジタル完全版」を限定公開しているのが目に止まりました。

 「羅生門」は言わずと知れた黒澤明の古典的名作です。
大映の資産を買い取った角川映画が、原版の劣化がひどかった「羅生門」を
各種機関と提携して 複数の上映プリント等から完全デジタル修復したので、
それを限定公開した、というわけです。
 どんな修復だったのかは、2月に発売されるブルーレイの宣伝サイト
一端を見てもらうとして、
「羅生門」のオリジナルネガは諸般の事情で廃棄され現存せず、
上映プリントも残っているものが意外に少なかったそうで、
修復はかなり苦労したようです。

 実際に観てみると、像、音声とも鮮明で、古さを全く感じさせませんでした。
随分前ですが、「七人の侍」のリバイバル上映を観た時は
音声が一部かなり不鮮明だったことを思うと、格段の差です。
 ただ完全版といっても、カットされたシーンが追加されているわけではないそうです。

 「羅生門」は恥ずかしながら、私はちゃんと観たことがありませんでした。
何十年も前に、テレビ放送していたのを断片的に観た覚えがあるのですが、
当時は芥川龍之介の原作も読んでいなかったので、
不条理な映画としか印象にありませんでした。

 芥川の原作「藪の中」自体、食い違う証言に、
人間行動の真相とは不可知なものだというのがテーマと言われていたので、
そんな映画だったと決め付けていたのですが、
今回改めて観て、ぜんぜん違う映画だったことを知りました。
 映画「羅生門」で黒澤監督らは、芥川の原作の裏に隠された真相を推理し、
それを映画化していました。

 原作では、強盗、暴行を働いた多襄丸の証言、
暴行された女の証言、暴行された女の夫で死んだ侍の霊の証言があり、
どれも人殺しをしたのは自分であると主張して、
誰が犯人か分からぬまま終わっています。
 「羅生門」では、ここまでは原作をほぼ忠実に描き、
この後、第四の証言者として、きこりを登場させます。
第三者の目撃として、実際はこんなことが起こったのだというのを
提示して見せるのです。

 これはおそらく、当事者3人の証言が、
盗人は盗人らしくすごんで見せ、女は貞淑さを装い、
侍は自身の不甲斐なさを嘆いてみせるといった、
それぞれ自分を演出していることに気付いたからではないでしょうか。
 黒澤監督らは「藪の中」に、事実の不可知ではなく、
自分を正当化するためには、意識するしないに関係なく、
都合よく事実を湾曲してしまう人間の業を見たのでしょう。

 ただ、きこりも最後で暴露されるように、
完全に第三者というわけではありません。
彼の証言も何らかのバイアスが掛かっている、ということで
真相はやはり分からないという含みを残したのでしょうか。

 ラストはきこりが捨て子を引き取っていくことで、一抹の救いを見せて終わります。
しかし、ここで私が引っかかったのが、タイトルの「羅生門」。
同名の芥川の名作短編「羅生門」は、
羅生門の上での男と老婆のやり取りから、
ころころ変る人間心理を描いたものなのです。
 罪を悔いて子供を引き取ったきこりの決心が
いつまでも変らないのだろうかと疑問を呈しているようにも。。。
と考えるのは、うがち過ぎですかね。
               (☆☆☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-12-03 21:37 | 時代劇 | Comments(0)
 黒澤監督、期待を裏切り御免! 公式サイト

 「映画生活」などのクチコミを見ていると、
この映画は賛否両論で、どちらかと言うと否が多いようです(^^;。
 面白いのは、評判より良かったと思う人は
オリジナルの黒澤作品を観ていない人が多く、
ひどいと言っている人は、オリジナルを観ていて、
黒澤版を評価している人が多いことです。
 私はオリジナルの黒澤作品を観て傑作娯楽映画と思っている一人ですが、
なぜこんなに評価が分かれるのか、実際に観てみて、なんとなく分かりました。
 オリジナルを知らないで、このリメイク版をそこそこ楽しめると思った人、
あなたが面白いと思ったところはたぶんオリジナルの残った部分です。

 「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」は、
中途半端に雪姫が悩み、シリアスにしようとした分、
オリジナルの黒澤版が持っていた、娯楽時代劇の爽快さを失いました。
戦国時代に現代の民主主義的価値観を持ち込まれても。。。ねえ。
 「ローレライ」といい、樋口監督は時代考証をあまり重視しないようです。

 換骨奪胎で、オリジナルを改悪している部分は、
関所を突破する部分にも現れています。
六郎太の機転で切り抜けるところを、リメイク版は
男色趣味を絡めた、後味の悪いエピソードを追加しています。
 キャラクターの変更にも疑問が残ります。
ジョージ・ルーカスがレイア姫のモデルにした気の強い姫、雪姫は、
リメイク版では後半以降、信念と気丈さを失って、
つい彼氏に頼ってしまう、アニメおたく好みのような女の子に変わってしまいます。

 黒澤作品のリメイクというと「椿三十郎」が記憶に新しいですが、
リメイクに対する両者のアプローチは全く逆で、好対照です。
「椿三十郎」がオリジナルを忠実にトレースしたのに対し、
「隠し砦…」は大幅に改編し、現代的なアレンジに挑戦しています。
チャレンジングなのは買いますが、
どちらが良かったかは、映画が示していると思います。
「隠し砦…」は図らずも、森田監督のやり方が保守的ながら
正しかったことを証明してしまいました。
 黒澤明、橋本忍といった、かつての名匠達が作り上げた傑作を、
凡百の人間が寄ってたかって作り直しても、
良いものには成り得ないということでしょうか。

 樋口監督、最高に面白い映画を創ろうという気概がおありなら、
リメイクや原作に頼らずに、オリジナルに挑戦したらいかがでしょうか。
                               (☆)
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by am-bivalence | 2008-05-31 10:07 | 時代劇 | Comments(0)

screen50 椿三十郎

黒澤映画の面白さを再認識 公式サイト

 まず、黒澤明の傑作の一つを、
比較されることも承知でリメイクした勇気に拍手。
しかも脚本をそのまま使うということは、映像で勝負するということですか。
 。。。と思っていたら、予告編を観ると
おいおい、黒澤版まんまじゃないですか。
製作総指揮:角川春樹?
椿三十郎:織田裕二?
 う~ん、観に行こうか迷っていましたが、意外に評判良さそうなので
思い切って観てみると、なかなかに楽しめました。

 やっぱり、いいシナリオは時代を超えて面白いんですね、
って言われてしまうのも、名作をリメイクをする側に不利なところ。
それでもそつなくまとめてみせたのは、さすが手練れの森田芳光監督です。
黒澤版そのままのカットも言ってみれば
森田流"本家取り"なんでしょうか。

 こうして改めて新版「椿三十郎」を観てみると、
"キャラがたっている"のに驚きます。
三十郎はじめ、室戸半兵衛や奥方のキャラクターは個性的で判りやすく、
娯楽映画のお手本といってもいいんじゃないでしょうか。
良く練られたプロットといい、キャラの効果的な使い方といい、
脚本をそのまま使ったのも頷けます。
 ただその分、状況説明的会話が多いとか、
黒沢映画らしいちょっと臭いセリフとかいった、
オリジナルの欠陥も引き継ぐことになるのですが。。。

 室戸役の豊川悦司はじめ、キャスティングがなかなか良かったんじゃないでしょうか。
中村玉緒、藤田まこと、などは、はまり役のように思います。
三十郎はもともと三船敏郎に合わせたキャラクターなので、
オリジナルと比べると見劣りしてしまうのは致し方ないでしょう。
 ただ、三船の三十郎にはシニカルな面があって、
三船三十郎の言う軽口には皮肉な響きがあったのに、
織田三十郎にはそれが足りないのが残念です。
三十郎は諸国を流浪している素浪人なので、世間の裏を見尽くしているはずなのに、
織田三十郎はそんな雰囲気が足りないのです。
織田三十郎がニヤリと笑っても 不敵と言うより、
脳天気に見えてしまうのは私だけでしょうか。
しゃべり方もまるで三船のモノマネをしているようなのも気になります。

 なんだかんだ言っても、黒澤作品の時代劇は面白いです。
「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」が時代劇だと思っている世代に
是非観てもらいたいものです。
 これを機会に「用心棒」や「隠し砦の三悪人」なんかもリメイクするとか、
黒澤作品のリバイバル上映するとか、ならないものでしょうかね。
                         (☆☆☆)

 *補足
  冬休み、帰省した実家で黒澤版「椿三十郎」のビデオを発見しました。
 黒澤版を見直してみて、森田版が黒澤版の全くの焼き直しという訳ではなく、
 随所にオリジナルの演出を加えていることに気付きました。
 自分を踏み台にさせながら、奥方に塀を乗り越えさせるところなど、
 オリジナルのイメージを大切にしながら、独自の改善を加えているのです。
  織田裕二の演技も三船のモノマネというより、
 三船ならこう演じていたのだろういうイメージを出していたようにも見えます。
 森田監督、したたかです。
 森田版の評価が上がりました。
  「隠し砦の三悪人」は「ローレライ」の樋口真嗣監督がリメイクするんでした。
 これもちょっと期待しましょう。
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by am-bivalence | 2007-12-27 00:41 | 時代劇 | Comments(2)

screen10 墨攻

 過度に期待しなければ楽しめる  公式ホームページ

 墨家のことを私は映画が公開されるまで知りませんでした。
原作の漫画は知っていましたが、まだ読んでいません。

 墨家の思想って、原始キリスト教に似ています。
質素を宗とする共同体、敵をも愛する隣人愛、非攻。
一つ決定的に違ったのは、墨者は皆、戦闘のプロだったことだそうです。
墨家の思想の全ては、戦争を無くしたいという想いから出ているようです。
端緒がピュアである分 先鋭化し、一般には受け入れ難くなってしまったのでしょうか。
 しかし、博愛、専守防衛の思想は非常に現代的で、
戦国時代に発達しただけに、示唆に富んでいます。
こういった映画が中国、香港、日本、韓国合作で造られるのは
意義深いと思います。

 その映画の出来は、知略を尽くして城を守るプロットは面白いのですが、
娯楽映画の定石として恋愛ドラマを入れるのは
ちょっと無理があったのではないでしょうか。
戦術を駆使してきたのに、最後の決着がこれ?とも思ってしまいます。

 守るだけでも、流血の悲劇は避けられず、
守り切ったとしても、暴政が行われればやはり悲劇が続くことは、
墨家思想の限界を示しているのでしょうか。
                       (☆☆)


参照映画:「キングダム・オブ・ヘブン」 リドリー・スコット監督 2005年
   歴史物の籠城戦ならばこれ。十字軍時代のイスラエルで、
  キリスト教とイスラム教の共存する国を守ろうとした若者の物語です。
  これも宗教を超えて平和な世界を造ることがテーマとなっています。
  オーランド・ブルームがシリアスな役を好演してます。
  投石器を使った攻城戦は迫力あり、私は劇場で見なかったのを後悔しました。

参照文献:「墨攻」 酒見賢一 新潮文庫
   映画の原典となったコミックはこれが原典。映画とは革離のキャラクターが大きく異なり、
  防衛のためなら手段を選ばない策士といった印象になっています。
  三国志や史記が好きならこちらが面白いです。
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by am-bivalence | 2007-02-13 23:45 | 時代劇 | Comments(0)

screen2 武士の一分

 名匠山田洋次の人情"西部劇"  公式ホームページ

 「たそがれ清兵衛」は幕末下級武士の慎ましい暮らしぶりを丹念に描いた傑作でした。
クライマックスで 果し合いをする相手にもそれなりに事情があって、切るに忍びず、
それが切ない情感とリアリティを出していました。

 時代劇三部作となっていますが、
「隠し剣鬼の爪」、「武士の一分」は
「たそがれ清兵衛」と大きく異なる点がひとつあります。
善悪が明確なのです。
 
 「武士の一分」でキムタク演じる新之丞が果し合いする相手は
卑怯者で妻の仇であり、一命を懸けても倒したい相手です。
 にっくき悪人と決闘で対決する、
これって往年の西部劇の構図じゃないですか。
決闘後のカタルシスも同じです。
(「隠し剣鬼の爪」も同じ構図ですが、
こちらは西部劇でなく、「必殺仕置人」でした。)

 藩内で果し合いなどしたら、勝っても負けてもただでは済まないはずですが、
そこは名匠、きっちり押さえています。
ツッコミどころを作らないのはさすがです。
                    (☆☆)

(以下ネタバレ)
 ラストは、徳平の"飯炊き女を雇う"のセリフで読めてしまいますが、
それでも心が暖かくなる情感にひたれます。

 参照映画:「シェーン」アラン・ラッド主演 1953年
   説明の必要もない、西部劇の名作。
  ガンマンだけでなく、開拓農民にも焦点を当てていたのは
  西部劇としては"異色"なのでしょうか。
  そういえばこのテーマ音楽、「遥かなる山の呼び声」でした。
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by am-bivalence | 2006-12-30 22:30 | 時代劇 | Comments(0)