劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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カテゴリ:人間ドラマ( 42 )

 前半「夕凪の街」は佳作だが、後半「桜の国」は消化不良  公式サイト

 映画は前半「夕凪の街」と、後半「桜の国」の2部構成。
「夕凪の街」は原爆投下後、13年経った広島を舞台に
"原爆スラム"と呼ばれるバラック街で慎ましく生きる女性、
皆実が主人公です。
 夕方の土手を、靴を脱いで裸足で歩く姿が心地良さそうですが、
それも実は靴をすり減らさないためだったりします。
映画はクラシックとも見えるオーソドックスな演出で、
淡々と皆実の日々を追っていきます。

 この物語は彼女が受けた原爆症よりも、
被爆体験によるトラウマに焦点をあてています。
今でこそPTSDは知られていますが、当時はそんな
メンタルな問題は認識されていなかったでしょう。
原爆症以上に理解され難い苦しみを、皆実はずっと内に秘めています。

 皆実が苦しまされるのは、自分が生き残っている事への負い目で、
"誰かに死んで欲しいと思われたのに生きてる"
という言葉が胸につまります。
 皆実親子の銭湯での場面、銭湯にいる人たちの多くが
ケロイドを持っているのをまのあたりにして、
"不自然に、誰もあのことを触れない"
というのが、被爆者の心の傷の深さを思わせます。

 後半の「桜の国」は現在を舞台に、皆実の姪である七波が主人公。
いつも元気な七波ですが、彼女も人に言えない心の傷を持っていたことが、
物語が進むにつれ明らかになってきます。
その傷は結局、母やお祖母さんの被爆による傷が遠因になっているのですが、
そのことが、原爆という大罪が現在にも影を落とし続けていることを教えてくれます。

 ただ、「桜の国」の部分は物語が消化不良ぎみのような気がします。
被爆2世の問題を扱うことがデリケートだったのか、
物語は七波が父親を尾行して広島に行き、
図らずも自分のルーツを見つめ直すことがメインで、
七波のもつ傷や、被爆2世の問題は軽く触れているだけのように見えます。
 最後の父親の回想シーンで、七波が若い頃の両親を見つめる演出も、
なぜ聞いてもいない親達の物語を七波が知るのか説明がなく、
中途半端です。
 前半、こころを揺さぶられただけに、現代部分の物足りなさが残念です。
                                   (☆☆
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by am-bivalence | 2007-08-22 00:36 | 人間ドラマ | Comments(2)
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by am-bivalence | 2007-08-02 22:22 | 人間ドラマ
 「バベル」「21グラム」の原点であり、原型

 私の生活圏内のシネコン、CINEMACITYでは、
定期的に過去の作品のアンコール上映を企画します。
 今回、気鋭のメキシコ監督選として、イニャリトゥ監督の
「アモーレス・ペロス」が上映されたので、これを逃さず観に行きました。
(私としてはアルフォンソ・キュアロン監督の
「天国の口、終りの楽園。」を観たかったのですが。。。)
                         (映画館サイト参照)
 アンコール上映なので公式サイトがありません。
概要を書いておきます。

「アモーレス・ペロス」(2000年・メキシコ・153分)
 監督、制作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
 脚本:ギレルモ・アリアガ

ストーリー:
 映画は白昼、街中を車が猛スピードで逃走していくシーンで始まります。
車には若者二人が乗っていて、後部シートには血だらけの黒犬が横たわっています。
追いかけてくるトラックを振り切ろうとして、車は赤信号を無視し、
事故を起こします。

 映画はこの事故に関わった男女3組のオムニバス形式となっています。
1話目は事故を起こした無職の若者の物語。
暴力的な兄のDVに悩む兄嫁に思いを寄せる彼は、
闘犬で稼いだ賞金で一緒に街を出て行こうと働きかけます。
遂に兄嫁と関係を持って、計画はうまく行くように見えましたが。。。
 2話目は不倫相手との生活を手に入れ、仕事も好調だったモデルが、
事故に巻き込まれて大怪我を負い、凋落していく顛末。
 3話目は事故現場にい合わせた浮浪者風の初老の男。
瀕死の黒犬を拾っていくことが、彼の人生を変えるきっかけを作ります。
この男は昔、大学教授から革命家を志しましたが挫折し、
今は浮浪者のような生活をしながら、影で殺し屋もやるという、ちょっと突飛な人物。
(依頼されたターゲットを尾行する顔つきがいかにも殺し屋風で、笑ってしまいます。)
革命のために捨てた妻娘が忘れられず、娘への愛を募らせていきます。


 「アモーレス・ぺロス」とはスペイン語で「犬のような愛」という意味だそうです。
各話とも犬が重要な要素、象徴として出てきます。
 映画は3組の愛の物語なんですが、不倫だったり、一方的想いだったり、
どれも報われない利己的、衝動的なもので、必然的に悲劇的結末になります。
(「ぺロス」は俗語で「最低な」という意味もあるらしい)*後注

 前半の若者のエピソードは、切れやすく刹那的で傲慢な
チンピラ風若者達に全く共感できず、
正直、観て失敗かと思っていましたが、後半は引き込まれました。

 処女作にはその作家のすべてがあると言われますが、
イニャリトゥ監督のこの映画はまさにそんな典型的例のように見えます。
貧富も含め様々な階層の人物を描くオムニバス形式、
時間軸を縦横に動かす語り口、混沌とした中の荒々しさ、
人を突き動かす情念を描き、切ない後味を残すスタイルは、
イニャリトゥ監督のその後の2作に共通するものです。

 特に本作では各エピソードで、別のエピソードの登場人物が
一瞬現れるような演出がされており、
このエピソードは、あのエピソードではこの時の話だったのかと
解る構造になっています。
 それが、年齢も生きる社会も異なる様々な人物が
実は同じ時間、空間を生きて、共有していることを感じさせるのです。
 本作は脚本を36回も書き直したというのも、うなずけます。

 イニャリトゥ監督は「バベル」でもこんなことがやりたかったのかと、
ちょっと納得しました。
                                  (☆☆


参照映画:「灰とダイヤモンド」 アンジェイ・ワイダ監督 1959年 ポーランド
 時間と空間の共有を感じさせる演出と言えば、
この古典的映画を思い出します。(古すぎ?)
 政情不安定な終戦直後のポーランドで、
テロリストの若者が政府要人を暗殺するという物語(だったと思います)。

 若者が要人を街角で射殺したとき、要人が若者に倒れかかります。
思わず抱きとめた若者の背後で、祭りの花火が上がるのです。
その花火を、様々な人が、いろいろな場所で、
それぞれの想いを胸に見つめているという有名なシーンです。

 確か、大林宣彦監督の「転校生」(1982)でも、
会うのを禁じられた主人公達が、
同じ花火を別々の場所で見上げている、情感あるシーンがありました。

*注)気になったのでちゃんと調べてみました。確かにそういう意味がありますが、
  辞書によって、かなり表現がまちまちです。俗語、口語表現だからでしょう。
   ~de perros:形)最低な、最悪な、悲惨な、みじめな、不幸な
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by am-bivalence | 2007-05-12 00:23 | 人間ドラマ | Comments(12)

screen25 バベル

 運が悪い方向に向かっていく緊張感で見せる"オムニバス映画"  公式サイト

 イニャリトゥ監督は前作に「21g」という哲学的タイトルを使っていましたが、
今回も哲学的意味を持たせた凝ったタイトルを冠しています。
 「バベル」というタイトルに込めた意味で、
テーマは「言語の壁」とか「相互理解」なんだろうと勝手に想像していましたが、
実際は、「言葉があっても生じるコミュニケーション不全」や
「人の愚行が生み出す誤解」だったようでした。
 映画の内容とタイトルが一致しているようで、
一致していないようなところも、前作同様です。

 「21g」では、1シーンごとに時制が違うのじゃないかと思うほど、
これでもかと、時系列をいじっていたイニャリトゥ監督、
(まあ、それでも観ていてストーリーが解るのは、すごいのかも知れませんが。)
素直に時系列でプロットを見せない手法は、本作でも控えめながら健在です。

 ただ、前作では心臓移植を通して、
無縁だった3人がめぐり合うことになりますが、
「バベル」では4組のエピソードが互いに密接に関連しあう訳でもなく、
ほとんど独立した物語となってしまっているのが残念です。
「アメリカ人観光客狙撃事件」を軸にした、
単なるオムニバス映画といった印象で終わっています。

 映画宣伝では現代世界情勢を考えているような、
社会派映画のように印象付けていますが、
描かれる問題は、ほとんど個人のレベルに止まっている様に見えます。
強いて言えば、社会派的なのはメキシコ人の不法就労問題ぐらいでしょう。
これを観て「世界はまだ変えられる」のか、と想いを巡らすには、
ちょっと無理があるような気がします。

イニャリトゥ監督の作品は一回観ただけでは、
なかなか理解できそうにない、含みを持った複雑な部分があるのですが、
かといって、何度も観直したくなるかというと、微妙です。
もう一度観直す機会があれば、印象が変わるのかも知れません。

(以下、ネタバレ)
 登場人物達が自分の枠を捨てて、理解し合えるのは
「生命の危機」を感じたからのようです。
 アメリカ人夫婦は妻の死を予感して、
心が離れてしまう元になった子供の死に対する思いを語り合います。
モロッコの少年は兄の命のために自分の過ちを認め、警察に投降し、
メキシコ人の乳母は砂漠から脱出するために、
自分が逮捕されることもかえりみず懸命になります。
 「生命の危機」に直面しなかった日本人親子の関係は
結局何も変化していないように見えます。
 人は命がけでなければ、解り合えないものなのでしょうか。
                            (☆☆)
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by am-bivalence | 2007-05-06 22:11 | 人間ドラマ | Comments(2)
 なぜか観た誰もが過去を振り返ってしまう、肉親との愛情物語  公式サイト

 東京タワー、長いこと行ってないなあ。
東京タワーって都心にある割にはアクセス悪いんですよね。
最後に行ったのは十年以上前だったと思います。
 子供の頃、家族で行った時は、階段を使って展望台に登るコースがありました。
鉄骨の間から下がのぞき見えるようで、怖くて行けませんでした。
大人になってから東京タワーへ行ったとき、挑戦しようと思ったのですが、
もう閉鎖されていて、一般は入れないようでした。

  「スタンド・バイ・ミー」や「三丁目の夕日」を観て 子供の頃を思い出すように、
この映画を観ると、誰もが我が身を振り返ってしまうようです。
私も、子供の頃のことや、親のことを思い出し、
親孝行どころか親不孝していることを考えて、ちょっと複雑な想いでした。

 私はまだ原作を読んでいないのですが、
松尾スズキの脚本は飄々としていて、笑いや涙も力が抜けた、自然体です。
だから、号泣させてくれるというわけでもありません。

 オカンもボクも、お金には苦労していたはずですが、
そういったことはさらりと流しています。
 オカンとオトンの関係は微妙で、
別居しているのですから、愛憎あっていいはずなのに、
そこには触れず、愛情のみに焦点をあてています。
 そんな、いい思い出だけ残った昔の記憶のような映画だから、
純粋に、肉親の無償の愛情、無条件の信頼を
思い起こさせてくれるのではないでしょうか。

 オカンの抗癌剤治療は痛ましく、
親にあんな思いをさせたくなかったという苦しみが胸を打ちます。

オカン役の親子共演も話題ですが、二人を比較するのは酷でしょう。
樹木希林の存在感は別格です。
                   (☆☆)
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by am-bivalence | 2007-04-21 10:31 | 人間ドラマ | Comments(0)
 身近な例で、司法の機能不全を告発する力作  公式サイト

 気になる映画が面白いのか、判断つきかねる時に、
私はネットで満足度ランキングを参考にすることがあります。
多くの人が満足していれば、それほどハズレではないだろう、という訳です。
 私が参考にするサイトは二つ、
ムービーウォーカーの「見てよかったTOP10」と、
映画生活の「満足度ランキング」、「クチコミ」情報です。
(ただ、映画生活のランキングは、ちょっと怪しげな部分があります。
単館上映作品が、数人の最高評価で上位に来たりします。
クチコミも、誰でも何でも書き込めるため、玉石混淆です。)

 ランクを見ていて、前から気になっていたのが、
「それでもボクはやってない」でした。
ここのところ、どちらのサイトでも上位にランクされ続けているんです。
これは放って置けません。
 上映期間が終わる今頃になって観に行ったんですが、
これが評判に違わず、いい作品でした。

  この映画を観ると、痴漢に間違われる事が、いかに深刻な事態を招くか判ります。
取調べで痴漢行為を否認し続けると、何ヶ月も拘留されることもあります。
留置所の処遇、人権は、刑務所と大して変わらないのが実情なので、
その間は実質、刑を受けているようなものです。
 保釈金を払って出ようとしても、その金額は百万単位です。
それでも無実を訴えて、裁判に持ち込んでも
裁判官は最初から検察側寄りで、99%が有罪になる。。。
 映画はそんなちょっと怖い、痴漢冤罪事件の実態を
丁寧に追っていきます。

 映画では、主人公の電車内での事件場面を見せません。
本当は何が起こったのか、観客にも分かりません。
それが担当女性弁護士の被告に対する当初の疑惑も
観客に違和感を持たせません。
裁判での証言の食い違いも、予断を許さない緊張あるものにさせています。

 実際に痴漢被害で苦しんでいる女性も多いでしょう。
物証のほとんどない痴漢事件に対して、推定無罪を厳格に当てはめてると
多くの事件が無罪で終わってしまいます。
勇気を持って告発した女性の行動が無駄になります。
どうも最近の痴漢裁判は、そういった事件に対する社会的批判の高まりから、
被害者の証言だけでも罰する傾向になってきたようなのです。
それが冤罪を増やすという歪を生んでいます。
 この問題、根が深いです。

 官僚的な裁判官が実質的権限を握る現状の裁判制度、
誰もが自分の職務を忠実に行ってるのに、冤罪を生み続けるシステム、
観終っても、明るい気持ちになれない映画ですが、
この実態を知っただけでも意義がありました。
                        (☆☆☆)
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by am-bivalence | 2007-03-17 09:04 | 人間ドラマ | Comments(4)

intermission4 幻の名曲

 最近、心に残る映画音楽がありません。
以前は「太陽がいっぱい」「ドクトルジバゴ」「ニューシネマパラダイス」
「007」「スターウォーズ」「インディージョーンズ」など、
その曲を聴けば映画を思い出す、
映画を思い出せば、テーマ曲が浮かんでくる、
そんな映画音楽がありました。
と言うより、名作には往々にして印象的な映画音楽があったんです。

 昨日、都心をぶらぶらしてたら偶然、
「ブラザー・サン シスター・ムーン」
の廉価版が出ているのを見つけてしまいました。
 「ブラザー・サン シスター・ムーン」は、私としては珍しく、
音楽が好きになって観た映画でした。
ただ、サントラ盤に恵まれていないので、
私の中では幻の名曲だったのです。
 衝動的に購入し、鑑賞するためにいそいそと家路を急いだのでした。

 「ブラザー・サン シスター・ムーン」は
13世紀イタリアの聖フランチェスコの物語です。
資産家の息子だったフランチェスコは
戦争で心身ともに傷を負います。
精神的に不安定になっていた彼は信仰に目覚め、
親の資産を捨て、富を否定して、清貧の生活をしながら
廃墟になっていた教会の再建を始めます。
最初、彼の変化を笑っていた仲間も、次第に彼の思想に共感し、
供に共同体生活を始めるのですが。。。

 はっきり言ってこの映画、一般の人が見て
面白いものではないかも知れません。
 聖人が主人公なので、非常に宗教的ですし、
製作当時の世相、ベトナム戦争後遺症、反体制、
ヒッピームーブメントの影響が色濃く見られます。
ただ、フランチェスコの訴える清貧の思想は、
物が溢れ、物欲を刺激され続ける今、傾聴に値するような気がします。

 それはとにかく、ドノヴァンの歌う主題歌は美しいメロディで、
その詩は無垢な信仰心がこもっています。
 私は一般的な日本人と同じ、無宗派ですが、
穏やかな自然の中にいると敬虔な気持ちになり、
この曲が浮かんでくることがあります。

 うららかな春の日差しの下で、満開の桜を見上げる時、

 朝のなだらかな草原を、密かに咲く花を見ながら散策する時、

 夏山の稜線を、遠くの山並みを眺めながら澄んだ空気を呼吸する時、

そんな時は、周りに人がいないことを確かめてから、
穏やかな気持ちでこの曲を口ずさんでみるのです。

 ”ブラザー・サン、シスター・ムーン
 私はなかなかあなたの姿、調べに気づきません
 自分の悩みでいっぱいなのです

 ブラザー・ウインドー、シスター・エアー
 私の目を純粋で正しくに見れるよう、開いて下さい
 周りの輝きが見れるように

 私は神の創造物、その一部です
 神の愛が心の中に目覚めていくのを感じます。。。”

詩の「神」を「自然」に読み換えれば、素敵な自然賛歌になるじゃないですか。
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by am-bivalence | 2007-03-11 12:15 | 人間ドラマ | Comments(0)
 癒せない心の闇を抱える人に。。。  公式サイト

 「硫黄島からの手紙」のヒットで関連書籍がいろいろ出て、
ちょっとしたブームになっています。
私も一冊、硫黄島の激戦体験者の手記を読んでみましたが、
一つ心を動かされたのは、生き残ったことを恥じる感覚でした。
あの激戦を生き残ったことを幸運に思うのではなく、
玉砕していった仲間を思って、死ななかった自分を恥じ入りながら生きていく感情は、
そんな辛い体験をしていない人間に、安易な共感を許さない壮絶なものがあります。

 「あなたになら言える秘密のこと」、
邦題はちょっと軽く、おしゃれな感じがしますが、気軽な気持ちでこの映画を観ると、
後半語られる内容の重さにめげてしまうかもしれません。
主人公ハンナの抱える人に言えない過去は、とても深刻で凄惨な体験でした。
私はそれなりに身構えて観たつもりでしたが、
やはりその体験談には 打ちのめされる気がしました。

 イザベル・コイシェ監督は、この作品が出来たのは
あるドキュメンタリーに携わったことがきっかけだったと言います。
ハンナの語る体験は信じ難いほど非人間的仕打ちですが、
実際にあったことを元にしているのでしょう。
 この作品中で、カウンセラーのインゲ女史は、ハンナのような人を
「生きていることを恥ずかしいと感じる人たち」と言います。
幸福なことに後ろめたさを感じる人たち。
硫黄島同様、悲惨な体験をしていない人間が
安易に理解したように語るのは はばかられるようにも思えます。
 ただ、ハンナは特殊な存在ではなく、
児童虐待、拉致監禁などといったことで、
現代日本でも起こりうることではないでしょうか。
そして、誰でも多少は持つであろう心の闇で共感することはできる様な気がします。

 映画は一見ハッピーエンドで終わりますが、
ハンナの問題が解決された訳ではありません。
ハンナの心の闇は消えたわけではなく、
それを生涯引き連れながら生きていくことになるのでしょう。
 この作品には冒頭、途中、最後に、少女のモノローグが入りますが、
少女が誰であるか最後まで説明されません。
しかし少女がハンナの中のトラウマの声であるのは明らかで、
最後にモノローグが入るのも、ハンナがずっと
彼女を抱え続けていることを示しているのです。
                            (☆☆(☆))

P.S.
 カナダ出身の主演女優、サラ・ポーリーは、ちょっと面白い経歴で、
芯の強い人であることを今回、公式サイトの関連リンクで知りました。
興味があればこちらを。


参照映画:「死ぬまでにしたい10のこと」 イザベル・コイシェ監督 2003年
    イザベル・コイシェ監督(前はコヘットと表記されてましたが…)の前作。
  英題は「My life without me」。 
  死期を知ったことで、やりたいことをリストにし、一つずつ実行していく女性の話です。
   気になったのは、彼女の作ったリストに自分のしたいことや、
  子供への思いはありますが、
  見事なまでに、夫に対する気遣いが無いことでした。
  気遣うどころか、浮気してみたいなんてリストアップしているのです。
   。。。あな、怖ろしい。
  本音のところ、女性にとって旦那の存在ってそんなものなんでしょうか。
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by am-bivalence | 2007-03-03 22:49 | 人間ドラマ | Comments(8)

screen8 手紙

 重いテーマだが、物語が。。。  公式ホームページ

 償いきれない罪を犯したらどうすればいいのか。
身内に犯罪者がいるばかりに、理不尽な偏見や、
差別を受け続けたらどうしたらいいのか。
重いテーマです。
最後に兄の出した贖罪のための結論は胸を打ちますし、
勤務先である電気量販店会長の諭す言葉も重みがあります。

 ただ、私はこの原作を読んでいませんので、
どこまでが原作のもので、どこまでが映画の脚色か分かりません。
ですから、映画として見て感じたことを書きます。
 私が映画の世界にシンクロできたのは前半まででした。
途中、由美子と直貴を結びつけたエピソードが物語のリアリティを失わせ、
ドラマの作為的な部分が目につきだしてしまったからです。
 ちょっとしたアラがどうしてこんなにも印象を変えてしまうのかと、
考えてしまった映画でした。

(以下ネタバレ)
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by am-bivalence | 2007-02-05 22:11 | 人間ドラマ | Comments(0)

intermission3 正しい資質


 仕事で煮詰まったり、孤立感に悩まされると、
私は一時期、お酒を飲みながら「ライトスタッフ」の
クライマックスを見返していました。

「ライトスタッフ」はアメリカ最初の7人の宇宙飛行士と、
トップテストパイロットだったチャック・イェーガーの物語です。

 アメリカ初の宇宙飛行士は、大統領の一言で
テストパイロットから人選することになります。
しかしこの時チャック・イェーガーは
トップパイロットでありながらテストもされませんでした。
彼が選抜条件である大学卒でなかったからです。

 宇宙飛行士となり世界中の注目を浴びる7人と対照的に、
チャック・イェーガーは宇宙開発とは無縁に過ごします。

 映画の終盤、ヒューストンで大歓迎を受ける宇宙飛行士達とオーバーラップして、
イェーガーは独り、航空機での高度記録に挑みます。
新記録高度の手前で不調になるエンジンを動かそうとしながら、
イェーガーが目指す空の先に見たものは。。。
星空、でした。
彼が目指したものも結局、宇宙だったのでした。
それを悟ったときの虚脱感。
 映画では2カットしか出てこない星空ですが、
映画ならではの映像表現でした。

 この直後、機は失速、墜落します。
その経過は原作に詳しく記述されています。
墜落していく機体を立て直そうとあらゆる手段を尽くすイェーガーと、
彼の陥ったジレンマの詳細は、文章でしか語れない面白さがあります。
 ちなみに映画では、イェーガーの独断で飛行したように演出していますが、
実際は正規に計画されたテストプログラムでした。
 この辺り、映画の意図が判ります。

 映画は、7人の最後ゴードン・クーパーが
宇宙に飛び立つところで終わります。
この飛行でクーパーは、新宇宙飛行記録を樹立しますが、
それも一時の栄光だったとナレーションが伝えます。
 誇り高く、気骨ある男たちを描いた映画は、
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲そっくりのテーマ曲で
勇気をくれたのでした。


 参照文献:「ザ・ライト・スタッフ 七人の宇宙飛行士」 トム・ウルフ 中公文庫
   ノンフィクション作家のトム・ウルフは自分で新しい概念を造るのが好きだそうで、
  「ライト・スタッフ」は彼が考え出した造語です。
   「ライト・スタッフ」とは、ウルフがテストパイロットに共通して見い出した資質、
  瞬時に的確な判断を下す能力、適性を指すようですが、
  明確に定義されているわけではありません。
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by am-bivalence | 2007-02-01 23:07 | 人間ドラマ | Comments(0)