劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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 黒澤監督、期待を裏切り御免! 公式サイト

 「映画生活」などのクチコミを見ていると、
この映画は賛否両論で、どちらかと言うと否が多いようです(^^;。
 面白いのは、評判より良かったと思う人は
オリジナルの黒澤作品を観ていない人が多く、
ひどいと言っている人は、オリジナルを観ていて、
黒澤版を評価している人が多いことです。
 私はオリジナルの黒澤作品を観て傑作娯楽映画と思っている一人ですが、
なぜこんなに評価が分かれるのか、実際に観てみて、なんとなく分かりました。
 オリジナルを知らないで、このリメイク版をそこそこ楽しめると思った人、
あなたが面白いと思ったところはたぶんオリジナルの残った部分です。

 「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」は、
中途半端に雪姫が悩み、シリアスにしようとした分、
オリジナルの黒澤版が持っていた、娯楽時代劇の爽快さを失いました。
戦国時代に現代の民主主義的価値観を持ち込まれても。。。ねえ。
 「ローレライ」といい、樋口監督は時代考証をあまり重視しないようです。

 換骨奪胎で、オリジナルを改悪している部分は、
関所を突破する部分にも現れています。
六郎太の機転で切り抜けるところを、リメイク版は
男色趣味を絡めた、後味の悪いエピソードを追加しています。
 キャラクターの変更にも疑問が残ります。
ジョージ・ルーカスがレイア姫のモデルにした気の強い姫、雪姫は、
リメイク版では後半以降、信念と気丈さを失って、
つい彼氏に頼ってしまう、アニメおたく好みのような女の子に変わってしまいます。

 黒澤作品のリメイクというと「椿三十郎」が記憶に新しいですが、
リメイクに対する両者のアプローチは全く逆で、好対照です。
「椿三十郎」がオリジナルを忠実にトレースしたのに対し、
「隠し砦…」は大幅に改編し、現代的なアレンジに挑戦しています。
チャレンジングなのは買いますが、
どちらが良かったかは、映画が示していると思います。
「隠し砦…」は図らずも、森田監督のやり方が保守的ながら
正しかったことを証明してしまいました。
 黒澤明、橋本忍といった、かつての名匠達が作り上げた傑作を、
凡百の人間が寄ってたかって作り直しても、
良いものには成り得ないということでしょうか。

 樋口監督、最高に面白い映画を創ろうという気概がおありなら、
リメイクや原作に頼らずに、オリジナルに挑戦したらいかがでしょうか。
                               (☆)
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by am-bivalence | 2008-05-31 10:07 | 時代劇 | Comments(0)
 練りこまれたプロットと細部までの気配りがすごい、
                目を凝らして見直したくなる映画
 公式サイト

 とにかくこの映画、困ったことに、
何を感想に書いてもネタバレになりそうな映画です。
さて、何を書くべきか。。。

 この映画のプログラムには、最後に袋綴じされた採録シナリオが付いています。
シナリオが載っているプログラムは、かなり珍しいのですが、
これには正直、助かりました(^^;。
 複雑なこの映画の一度で観て解らなかったところは、
もう一度観るか、このシナリオを読むことをオススメします。
記憶のあやふやな部分や、最後まで観て疑問に思った最初の部分が
随分すっきりします。

 採録シナリオを読むと、改めて、細部まで注意を払って
作られていることがわかります。
それは観客だけでなく、登場人物達の誤解や行き違い、
思い込みを巧みに使っていて、筋の通ったプロット運びがみごとです。
原作になるミステリー小説もなく、監督オリジナル脚本なのが素晴らしいと思います。
映画ならではのトリックもありますし。

 前半、物語は島崎を名乗る探偵に教師の神野が
振り回される形で進みますが、この時はさほど謎らしい部分が見当たりません。
どこに伏線があるのだろうと思いながら観ていると、
後半突然、"どういうこと?"と、観客は訳がわからなくなり、
置いていかれたまま、ストーリーが進んでいきます。
でも、この状態を辛抱して観続ければ、断片的に状況が見えてきます。
最後には登場人物達も知らなかった細部も解って、にやりとさせられるのです。

 ポスターや公式サイトのトップがジグゾーパズルをモチーフにしていますが、
まさにパズルを見せられているような映画です。
ただその分、観終わった後の感動はライトな感じがします。
 監督が主演に大泉洋を起用した理由を、
"出ているだけで軽い感じがするから"
と述べていたので、後味がずしっと感情を揺さぶるようなものでなく、
軽い爽快感の残る程度なのも、監督の好みなんでしょう。
 でも後半の神野のセリフ、
「お前がつまらないのは、お前のせいだ」
にはギクリとさせられました。
            (☆☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-05-27 21:39 | ミステリー | Comments(0)
 演じていたはずが。。。の、哀しい官能ラブストーリー  公式サイト

 最近、今頃になってユン・チアン「ワイルド・スワン」を読みました。
この小説は、清朝末から文化大革命まで、激動の中国社会を生き抜いた
母娘三代に渡る実話なんですが、これがとても面白く、夢中で読み終えました。

 ユン・チアンの語り口はとても上手く、自分たちが見てきた歴史を
中国史の知識のない人でも分かりやすく伝えてくれます。
 纏足をはじめ、清時代の古い生活習慣、
日本による植民地支配の圧政から、その後の国民党の暴政、
中国共産党が民衆の支持を得て台頭してくる様、文化大革命の支離滅裂さなど、
中国人が悪政に苦しんだ歴史を知る一方、
権力を私的に流用しても全く後ろめたさを感じない
中国人のメンタリティまで分かって、興味深いものでした。

 この「ワイルド・スワン」の中で、ユン・チアンの母が学生時代、
反国民党活動で共産党の諜報員をしていた話が出てきます。
こんな逸話を読んでいると、
「ラスト、コーション」で学生たちが反日運動のあまり、
傀儡的中国人を倒す計画を実行しようとしたストーリーも
あながち絵空事のようには見えません。
バックに組織があれば、ですが。。。

 「ラスト、コーション」は日本の植民地支配時代に
日本政府に取り入った重要人物を暗殺するため、
身分を偽り体を張って近づく女子大生の物語です。
 タイトルの「ラスト」はlastでなく、lust=色欲のことで、
この言葉は映画「セブン」で犯罪のモチーフとなった、
キリスト教、七つの大罪の一つ「色欲」でもあります。
中国語原題「色、戒」の英語直訳ということでしょう。
大胆なベットシーンが話題を呼び、中国ではヒットしたそうです。
 日本でも評判が悪くないので観てみたんですが、
正直、観終わって、もう一つピンときませんでした。
どうも私はこの映画に「ブラックブック」のようなサスペンスを
期待していたのが、いけなかったようです。

 この映画、ストーリーが複雑でないので、
サスペンスものとしては158分は長すぎでしょう。
また、サスペンスに必須のどんでん返しもほとんど見当たりません。
話題の濡れ場も冗長でしょう。
 なのに158分もの長さになったのは、映画の本質がラブストーリーであって、
ワンとイーの関係の変化を描く事に力点が置かれていて、
そこが評価されている点のようです。

 植民地支配する日本に取り入って利権を得ているイーは、
中国人にとって裏切り者であり、恨んでいる中国人も多いはずのに、
そういった面は映画ではほとんど描かれていません。
映画で描かれるイーはワン視点からがほとんどで、
ワンが見たイーは、普段は紳士で優しく、
ベッドでは暴君です(笑)。
 そんなイーをワンは、
"嘘をすぐ見抜くので、全力でぶつかり受け止めなければならない"
といったことを言っています。
そこで濃厚なベットシーンを詳細に描くのも意味を持つ、という訳です。

 印象的な日本料亭のシーンでは、
イーが日本側にいるといっても日本人と親密にしている訳ではなく、
中国人にも日本人にも受け入れられていないイーの孤独を
ワンが理解することになります。
ここでのイーへの共感が、ラストのワンの行動を生むのでしょう。

 (以下、ネタバレ)
最後は、唯一信じていた女性にも、組織にも
裏切られていたことを知ったイーの悲哀が切ないです。
 タイトル「ラスト、コーション」は原題の直訳だと思っていましたが、
実はワンを破滅させるクライマックスの
"最後の警告"と掛けていたのかも知れません。
                     (☆☆)
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by am-bivalence | 2008-05-22 00:10 | ラブストーリー | Comments(0)

screen63 ノーカントリー

いつ襲ってくるかわからない死をめぐる秀作スリラー 公式サイト

 かつて映画には、ピカレスク物とか、
バイオレンス映画とかいったジャンルが一定の人気を保っていました。
「俺たちに明日はない」とか、
サム・ペキンパー+スティーブ・マックイーンの「ゲッタウェイ」、
ギャング物ではチャールズ・ブロンソン「バラキ」などなど。
日本でいえば深作欣二の任侠物とか、
松田優作「蘇る金狼」なんていったところでしょうか。
 しかし、「スターウォーズ」の大ヒットで、
映画は見たことのない映像をSFXを駆使して
ティーン・エイジャー達に見せる健全な娯楽になり、
バイオレンス映画は衰退していきます。

 それでもバイオレンス映画は途絶えたわけではなく、
このコーエン兄弟の「ノーカントリー」も、
そんなバイオレンス映画の脈流が生きています。
 ただ「ノーカントリー」が違うのは、
マックイーンのようなヒーローがいないこと。
そして、暴力よりも知性を感じさせることではないでしょうか。
 例えば、主人公モスが麻薬組織に追われて川に飛び込み、
下流に泳ぎ着いた後、追ってきた猟犬を拳銃で迎え撃とうとするシーン、
濡らしてしまった拳銃の扱い方には、なるほどと感心させられます。
夜の街で、殺し屋シガーとの銃撃戦の仕方なども、
ベトナム戦争を生き抜いてきたモスらしい、
考えた戦い方をしています。

 しかし何と言ってもこの映画の一番の見所は、
最悪の殺し屋、シガーの恐ろしさ、不気味さでしょう。
無感情に、どんな相手も平然と殺してしまう殺し屋。
コーエン兄弟の演出は冴えわたっています。
いつ殺人者の牙を剥くか分からないシガーと店主の会話の緊張感、
容赦なく撃ってくる、姿の見えない殺し屋相手に応戦する恐怖など、
シガーの絡む場面はどれも、緊迫感がみなぎっています。
 シガー演じるハビエル・バルデムは
「海を飛ぶ夢」の全身不随の主人公を演じた俳優で、
とても同じ人が演じているとは思えない変貌ぶりです。

 原作のタイトルは「血と暴力の国」だそうで、
これがこの映画に含まれたテーマをよく表しています。
最後、追われる者と追う殺し屋、その二人を追う保安官の
三つ巴の戦いになるのかと思えば、
あっさり観客の期待を裏切る意外な結末が待っていて、
そこがなんとも文学的なように感じました。
 劇中語られる、簡単に人を殺す最近の犯罪の異常性や、
最後に保安官の語る夢の光景などで、
映画に社会批判的、哲学的な意味を含ませていて、
単なるスリラーに終わらなかったのが、
アカデミー作品賞を取った秘訣なんでしょう。

 まあ、難解な哲学的意味はよく解らなくても、
映画的面白さを十分楽しめる作品でした。
                       (☆☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-05-15 23:22 | サスペンス・スリラー | Comments(0)

screen62 つぐない

 最後につぐないの意味を考えさせられる 公式サイト

 このところベストセラー小説の映画化作品ばかり観ていますが、
この映画は原作を読んでいません。
でも本作は映画最後のどんでん返しが秀逸と評判だったので、観てみました。
 以下、ネタバレしないように書きますが、
観ていない人には何を言っているのか分からないかも。。。
(って、いつものことか)

 確かに映画最後に、この物語のある意外な真相が明かされ、
”つぐない”とは何だったのか、本当の意味が判ります。
映画の冒頭から響いているタイプの音は
そういうことだったのかと、納得しました。

 このどんでん返し、素直に受け止めれば
ああそうだったのかと、感動できるでしょう。
償いようの無くなった過去を贖罪する手段としては、
こんな方法しかなかったかも知れません。

 でも、と、疑問がもたげてきます。
これが本当に贖罪になるのかどうか。
ひねくれた見方をすれば、
これは自身の罪でさえも作品の糧にしてしまったとも取れます。
償えない罪を償うというジレンマ、
この解はそう簡単には出ないようです。

 また、映像的にはあまり評判の良くない戦場のシーン、
確かに作品のテーマにはあまり関連ないシーンですが、
5分以上の長回しシーンは実験的で面白く、
私はそれなりに楽しめました。

戦場の長回しシーンといえば印象的だったのが
「トゥモロー・ワールド」でしたが、
「トゥモロー・ワールド」が戦場を体感させてくれたのに対し、
本作は打ち上げられた帆船や、観覧車など
戦場とは思えない風景が超現実的で、
幻想的で混沌とした世界に踏み込んだ感覚を受けました。
                   (☆☆☆)
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by am-bivalence | 2008-05-01 00:01 | 人間ドラマ | Comments(2)