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劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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 スノーデンと、アイヒマンと、人間の尊厳 公式サイト

 元CIA職員エドワード・スノーデンがアメリカ国家安全保障局(NSA)やCIAが
国民全てのネット、メール、電話を盗聴傍受していることを暴露したスノーデン事件。
全市民の通信を傍受し情報を抜き取る、それはまさに「ダークナイト」のクライマックスでバットマンが行った事を現実にアメリカ政府が行っていることになります。
しかもこれはアメリカだけでなく日本を含む世界中で行われているといいます。

 「シチズンフォー」はこの事件を扱ったドキュメンタリー映画ですが、
この映画のすごいのは、事件が公になる前スノーデンが暴露のためにジャーナリストと接触するところから撮影されている事です。初めて香港のホテルでスノーデンとグリーンウォルドらが話し合う時、スノーデンの盗聴、盗撮に対する極度の警戒ぶりに驚かされます。
彼の話を聞くにつれ、グリーンウォルドやポイトラス監督も疑心暗鬼になっていくところなど、スパイ映画さながらの緊迫感を感じさせます。

 シチズンフォーとは、スノーデンがポイトラス監督に接触するために使ったコードネームだそうです。スノーデン以前に同様な告発をした人物が3人おり、4番目の市民という意味を込めたといいます。
 この暴露でスノーデンはスパイ罪に問われ、アメリカに戻れずロシアに一時的な亡命の身になりました。
彼は祖国の裏切者なのでしょうか、真に国を憂いた愛国者なのでしょうか。
いや、彼は国家の非人道的逸脱に疑問を抱き、人間としての良心に従っただけなのではないでしょうか。

 罪を問われるスノーデンを見ていて、アイヒマン裁判を思い出しました。
「ハンナ・アーレント」や「アイヒマンショー」として映画にもなっている元ナチス親衛隊アドルフ・アイヒマンの裁判です。
 アイヒマンは強制収容所へのユダヤ人輸送を指揮し何百万人も死に追いやった人物で、モサドに捕えられイスラエルで裁判にかけられました。
元ナチス親衛隊員がどれほど冷酷で狂信的な人間か世界が注目するなか、現れたアイヒマンはいたって平凡な人物でした。アイヒマン自身は反ユダヤ主義では無かったといいます。彼は受けた命令をただ官僚的に粛々と実行したのでした。
彼を見たハンナ・アーレントはアイヒマンを「悪の凡庸さ」と評し、命令により誰でも彼と同じ行動を取りうることを指摘します。
 これに対し、スノーデンは非人道的命令をアイヒマンとは真逆に拒否する行動に出たのです。
これはなかなか出来ない事ではないでしょうか。
一般人のネットのやり取りを監視するのと、ホロコーストのような虐殺に加担するのとは次元が違うとも思われるかも知れませんが、いずれも権力によって人の尊厳を踏みにじるという点では同じです。

 組織の命令で非情な行動を要求される、これは組織の中にいる人間がしばしば陥るジレンマです。
非人道的な命令にも組織の論理に従って行動するか、自身の価値観で行動するのか。
組織に従っても、自身の価値観で行動しても、罪を問われるなら、
私達はどうするでしょうか。
# by am-bivalence | 2016-07-10 00:45 | ドキュメンタリー | Comments(0)
 スターウォーズファンが自分で観たいスターウォーズを作ったら
こんな映画になっちゃいました?
 公式サイト

 予告編を観たときから、ちょっといやな予感がしたんですよね。
帝国が崩壊してから30年経っているはずなのに帝国軍と反乱軍がまだ戦っていて、
出てくる戦闘機もほとんど変化してないXウィングとTIEファイター。
30年間何やってたんでしょ。
 実際、公開後の反響でしばしば聞くのが
“面白かったけど、「新たなる希望」を観ているみたい”
 私も観てそんな感じを持ちました。
なぜ「フォースの覚醒」はそんな既視感を感じてしまうんでしょう?

 そもそもジョージ・ルーカスがスターウォーズでやったことは娯楽映画の復権でした。
「新たなる希望」が作られた70年代、ハリウッドはアメリカン・ニューシネマのムーブメントがあって、社会性を伴ったシリアスな現実を見せるのが一つの主流でした。
そこに娯楽としての映画を改めて造り大ヒットしたのがスターウォーズでした。
 ルーカスはTVで観ていたフラッシュ・ゴードンを映画化したかったのですが叶わず、
オリジナル作品であるスターウォーズを産み出します。
SFである自由さを活かし、ルーカスはそこに過去の様々な連続活劇、娯楽映画のエッセンスを注ぎ込みました。
Xウィングの空中戦はもちろん戦争映画、
ライトセーバーはチャンバラ時代劇、
ルークやハン・ソロが酒場で絡まれるのは西部劇、
ルークがレイアを抱えてロープで谷を越えるのはターザン映画、
セールバージでの処刑は海賊映画、
様々な惑星を渡り歩くのは世界を叉にかける007のオマージュ、
etc.etc...

 では、「フォースの覚醒」はどうでしょうか。
他の娯楽映画を連想させるようなシーンはほとんどありません。
観ていると、どこかスターウォーズシリーズで観たようなシーンが多いんです。
(ひとつ他作品のオマージュと思われるのが冒頭のレイ登場シーン。
ここは「風の谷のナウシカ」の冒頭でナウシカが腐海を探索するシーンを思わせました。
「ナウシカ」は宮崎駿が「ゲド戦記」をアニメ化したかったのに叶わず、
オリジナル作品として誕生したのがスターウォーズと似てます。)

 これまでのスターウォーズが娯楽映画の集大成にしようとしていたのに対し、
「フォースの覚醒」はこれまでのスターウォーズシリーズばかり参照して
表面的にスターウォーズらしさを作っている様に見えるんです。
まるでスターウォーズの大ファンが過去作品を継ぎはぎし、
自分の観たいスターウォーズを作ってしまったかのようです。
 製作スタッフほとんどがファンであるのを表明しているので、
そうなってしまっても仕方ないのかもしれませんけど(笑)。

 なぜこれまでのスターウォーズを継ぎはぎしたような映画になったか、
その訳はやはりルーカスからディズニーへ制作が移ったことにあるようです。
「フォースの覚醒」はオープニングのタイトルロゴに、
本来ならディズニーのシンデレラ城が現れるはずが、ルーカス・フィルムのものが流れます。
つまり、ディズニーはスターウォーズをディズニー・ブランドとは距離を置かせ、
いわばスターウォーズ・ブランドとして独立させているのです。
下手にディズニーを意識させると観客が離れてしまうのを自覚しているのでしょう。
 その配慮が作品にも及んだのではないでしょうか。
制作体制が違ってもスターウォーズの世界は変わらないとアピールするために、
メカなども大幅なリニューアルはせず、プロット、シチュエーションも似たような感じにして
わざと既視感を持たせ、スターウォーズらしく見せたように思えます。

 ともあれ、主役が女性だったり、脱走兵が主要キャラの一人だったりして、
新機軸も見られますし、次作の伏線だろう幾つもの謎なども提示されています。
次回はJJ・エイブラムズらしい意表を突く展開を期待しましょう。(☆☆☆)
# by am-bivalence | 2016-01-17 00:39 | SF | Comments(0)