劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

タグ:サスペンス ( 27 ) タグの人気記事

SCREEN113 アイガー北壁

極限状況でのクライマーの執念と無念を見せるサスペンス佳作 公式サイト

 アイガー北壁と言うと思い浮かぶ映画が、
クリント・イーストウッドが主演・監督した「アイガー・サンクション」。
その「アイガー・サンクション」でも描かれているように、
アイガー北壁というのはちょっと変わった山です。
ヨーロッパ・アルプスの最難所と言われながら、観光のアクセスもよいのです。
アイガー北壁内にはユングフラウ鉄道のトンネルが通っており、
中腹のアイガーヴァント駅からは、一般観光客でも北壁からの眺望を楽しめます。
 また、山麓にはアイガー北壁全体を一望できるリゾートホテルがあって、
天気が良ければ、望遠鏡で北壁を登るクライマーを逐一観察できるのです。
「アイガー北壁」劇中のセリフにあったように、まさに”垂直の闘技場”。
 そんな環境がまだ北壁が未登攀だった時代に既に整っていたのを
この映画で知って ちょっと驚きました。

 「アイガー北壁」はヨーロッパ・アルプス最大の難ルート、
アイガー北壁の初登攀を目指す登山家達に起こった悲劇の実話を元にした物語です。
この事件はヨーロッパ・アルプスの登山者なら誰でも聞いたことのある有名な逸話だそうで、映画を観れば、確かにその劇的な物語が今だに語り継がれるだけあることが分かります。
「アイガー北壁」は山岳映画というジャンルにとどまらず、
登山を知らない人でも十分見ごたえのあるサスペンス映画の佳作にもなっています。

 1936年、ナチス・ドイツが勢力を拡大していた時代。
ナチスはヨーロッパ・アルプス最後の難ルート、アイガー北壁を初登攀した者に
ベルリン五輪(レニ・リーフェンシュタールがオリンピック映画の名作と言われる
「民族の祭典」「美の祭典」を撮った大会)で金メダルを授与することを決定、
この年、多くの登山隊がアイガー北壁に集まります。
ドイツ人トニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサー組もその一つでした。
 彼らはドイツ代表のように注目されますが、
意外だったのは、彼らは誰の援助も受けていないことです。
彼らはハーケンを手作りし、少ない自己資金で登山するため、
交通費を節約して、アイガーまでの道のり600kmを自転車でやってきます。

 なぜ、「実話の映画化」でなく「実話を元にした映画」なのかというと、
映画の骨子に大きなフィクションが加えられているから。
どこがフィクションかは後述するとして、
事件の概要には、史実として伝わっているものに忠実で、
出来る限り再現しているようです。
ただどうしても事件の細部に不明な部分があり、推測で構成されたものがあって、
映画の中心部分にフィクションを入れたのは、どうせ虚構が避けられないなら、
いっそ映画向きにフィクションを加えて面白くしようということでしょうか。

 それにしても、死地に立ったクライマーの見せる生命力、
生還への執念は驚かされます。
 同じく実話を映画化した「運命を分けたザイル」や、
沢木耕太郎のノンフィクション「凍」もそうでしたが、
もう体力、気力を使い果たしたと思われてもなお、
彼らが死力を尽くす姿は心揺すぶられました。(☆☆☆)

*史実とフィクションに関すること(ネタバレ注意!)
[PR]
by am-bivalence | 2010-07-27 23:37 | 人間ドラマ | Comments(0)
 ニクソン役フランク・ランジェラの好々爺としたタヌキぶりがすごいが、
これはニクソンの実像なのか
  公式サイト

 ウォーターゲート事件で失脚した後、
政界復帰をも狙って初めて単独インタビューに応じたニクソンと、
自分の資産も投じてこのインタビューに賭けたというフロストの
真剣勝負の舌戦が呼び物であるこの映画、
確かにインタビューやその前の出演交渉などの駆け引きは面白いです。
 脚本がうまく出来ていて、個々の駆け引きの勘所を
各陣営内での会話や、関係者の回顧インタビューと言う形で
解説しながら見せてくれるので分かりやすく、引き込まれていきます。

 すごいのはフランク・ランジェラが演じるニクソンのタヌキぶり。
好々爺としながら、議論の矛先を巧みにかわし、自分の功績をアピールする話術は
かえってニクソンという人物を見直し、好感?さえ持ってしまいます。
(ニクソン側に肩入れしがちなのは、フロストを演じているマイケル・シーンの眉毛が
ジャック・ニコルソンのようで好きになれなかったこともあります(笑))

 でもここで描かれているニクソンは、本当にニクソンの実像なんでしょうか。
私のイメージするニクソンはもっと生真面目で、
人好きされない人物のような気がするのですが。。。
(会ったことがないので、分かりませんけど(笑))

 この脚本を書いたのは「ブーリン家の姉妹」、「クィーン」、
「ラスト・キング・オブ・スコットランド」の脚本家ピーター・モーガン。
 「ブーリン家の姉妹」では史実と違っているところも多々あったとか。
「ラスト・キング・オブ・スコットランド」では主人公は(モデルはいたらしいですが)
架空の人物でした。
 「フロスト×ニクソン」も、プログラムにある映画評論家町山智浩氏の解説によると
事実関係が異なるところが幾つかあるようです。
 特に、クライマックスとなるインタビュー後半部の裏事情は
ニクソン側関係者の証言が映画と全く異なっていて、
このドラマの根幹に関わる部分が変えられているのです。

 どうもこの脚本家は、史実を忠実に描いて、
史実にないところを作家の想像力で膨らませるようなアプローチはせず、
実話から自分が面白いと思ったドラマイメージを拡大解釈し、
そのために事実と異なる脚色もかまわないと考えているようです。
「チェ1,2」のソダーバーグとは対極の作り方です。
 まあ、映画制作法としてはピーター・モーガン的方法がほとんどで、
「チェ1,2」のような映画のほうが珍しいんですが。。。

 とうわけで、そういった事情を踏まえた上で楽しむならば、
とても興味深い人物像を描いてみせるドラマでした。
                            (☆☆☆)
[PR]
by am-bivalence | 2009-04-09 23:10 | 人間ドラマ | Comments(0)

screen106 チェンジリング

 予想を上回る展開と、静かに胸を打つエンディングの佳作 公式サイト

 先日、村上春樹氏がエルサレム賞授賞式で行ったスピーチが話題になりました。
壁と卵の比喩、壁(システム)にぶつかって壊れる卵があれば
卵の立場に立ちたいという比喩を使ったスピーチです。
 この映画も言ってみれば、壁にぶつかってしまった卵の話です。

 「パーフェクト・ワールド」、「ミスティック・リバー」、
「ミリオンダラー・ベイビー」、硫黄島2部作と、これまでイーストウッド作品は
重くて、ある意味救いがなく、観るのにそれなりの"覚悟"がいるものばかりでした。
でも今回の「チェンジリング」はちょっと違いました。
最後に希望があるのです。それを信じる者に生きる力を与える希望が。
たとえそれが幻のような不確かで儚いものだとしても。

 プロットがよくできていて、本当にこれが実話?と思ってしまうほどです。
途中ホラーチックな演出もありますが、全編を通じて行方不明の息子がどうなったのか
を追うサスペンスになっています。
こんな結末なんだろうという予想を超えて展開し続いていく話は
144分の長さを感じさせませんでした。

 changelingとは"入れ替わり"とかいった意味かと思っていたら、
神隠しにあった子供とすり替わって現れる子供のことだそうで、
一般的な辞書にも載っています。
まさにこの事件そのもので、よくこんな単語があったなあ、と感心します。

 行方不明になった息子を取り戻したい一心で行動する母親というと、
ハリウッド映画なら「フライトプラン」のジョディー・フォスターのような
逞しいアメリカ女性が出てくるのだろうと思っていましたが、
「チェンジリング」の母親は警察の詭弁や嘘にも反論できないおとなしい女性です。
それが後半に変わっていくのも見所。
 本作のアンジェリーナ・ジョリーはこれまでの地でやっていたような
自信たっぷりの女性とは全く違って、気弱な感じの母親を好演しています。
この役でジョリーは今年のアカデミー主演女優賞にノミネートされていました。
                                (☆☆☆
[PR]
by am-bivalence | 2009-03-13 23:23 | サスペンス・スリラー | Comments(0)

screen103 007/慰めの報酬

 本家ジェームズ・ボンドはジェイソン・ボーンになっってしまうのか  公式サイト

「クラッシュ」のポール・ハギスによる脚本で007シリーズに人間ドラマを持ち込み、
魅せてくれた新生ジェームズ・ボンド、
再びハギスの脚本で前作の続編として作られるとあれば、期待も高まろうというもの。
 でも、観てみると何か違う。。。

 アクションはそれなりに楽しめます。
「ボーン・アルティメイタム」「イーグル・アイ」のような速いカット割で、
付いて行くのが大変です。 頭がくらくらします(笑)。
でも、何か違う。。。

 いままでのボンドは機知を使って一発逆転、
危機を乗り越えていく痛快さがありました。
でも今回のボンド、反射神経とスピードで勝負、のようなところがあります。
予告編でも使われている車内で向けられた銃を払うシーンなど、その典型です。
それが"若き"ジェームズ・ボンドってことなのでしょうか。
独断専行、猪突猛進でMを困らせているのも、若さゆえ?。

 屋根の上をつたって逃亡するシーンなど、
なんだか「ボーン・アルティメイタム」を観ているみたいだなあ、と思ったら、
アクションシーンの撮影監督に「ボーン・アルティメイタム」の
撮影監督を起用しているそうです。
どおりで「ボーン・アルティメイタム」と同じ、
カメラが対象と一緒になって飛んでいくカットがあるはずです。
 ジェームズ・ボンドがシリアスでユーモアを無くしてしまうと、
ジェイソン・ボーンになってしまうんでしょうか。
 従来のパターンを破って新機軸を作るのは
なかなか大変なんですね。
                 (☆☆
[PR]
by am-bivalence | 2009-01-31 22:08 | アクション | Comments(0)

screen96 ブラインドネス

 人間はそこまで醜くないと信じたいが。。。  公式サイト

 日本人俳優二人の出演でも注目された「ブラインドネス」、
宣伝文句で"心理パニックサスペンス"と謳ってしまったので、
世界的に広がった新種の伝染病が引き起こすパニック映画と誤解してしまう人が多いようです。
 この映画では、人々が失明してしまう伝染病の正体は最後まで分かりませんし、
主人公がなぜ、ただ一人失明せずにいられるのかも全く説明されません。
 結局これは、極限状態で現れる人間の本性を見せる寓話なのですが、
ここで描かれる人間性がとても浅ましく、観ていて息詰まってしまうのです。

 隔離された失明者は人数の少ないうちはまだ秩序を保っていられましたが、
人が増えて収容所内の衛生状態が最悪になり、スラムのようになってしまったとき、
銃を手にして王を名乗る男が全てを支配しようとします。
 男が最初、盲人には全く価値の無い貴金属を徴収するのには笑ってしまいますが、
次に女性を要求しだした時の男達の反応は、なんともやり切れません。
貧困に窮してしまうと、そういう人間性も現れるのかもしれませんが。。。

 「シティ・オブ・ゴッド」で人殺しをなんとも思わないスラム・ギャングを描き、
「ナイロビの蜂」でアフリカの貧困を目の当たりにしたメイレレス監督には、
そのような人間性が身に染みてリアルと感じるのでしょう。
 でも人間は、もう少し賢明だという気がするのです。
無秩序状態からお互い納得できる秩序を作り出し、
尊厳のために命を賭けても抵抗するといった、理性的で高潔な部分です。
 ただアメリカのような先進国でさえ、
テロとの戦いと称して、石油利権を求めてイラクを侵攻したように、
私利のために力を行使していることを考えると、
人間の理性を信じようとするのも、空しくなることがあるのですが。。。

 ラストは主人公一人が不安を抱えながらも、希望が見える終わり方ですが、
重苦しい思いばかり残ってしまった映画でした。
                     (☆☆)
[PR]
by am-bivalence | 2008-12-05 23:59 | 人間ドラマ | Comments(0)
 仕事をするとはどういうことかを見せてくれる力作  公式サイト

 突然、目の前に大きな仕事が現れたら、人はどうなるか。
犠牲者数で史上最悪の航空機事故となった、
日航ジャンボ機墜落事故を追う地方新聞社の人間模様を描いた本作は、
普段、身を粉にして働いているビジネス・パーソンには
身につまされる映画ではないでしょうか。
 なにしろ、墜落事故報道の全権を任された主人公が遭遇する軋轢は
組織で働く者にとってリアルすぎるのです。

 販売局と編集局に象徴される組織間の対立、
過去の栄光で今の地位を維持している上司、
同期や上司から受ける妬み、上層部の派閥争いといった、人間関係、
上層部の都合で部下の功労をつぶされ、報いてやれない口惜しさ、
一人で重大な決定をしなければならない孤独、
おまけにありがちですが家庭内までギクシャクして、
親子関係もうまくいっていません。
キレイ事の「課長○耕作」とは違い、とても泥臭いです。
そして、それら一つ一つを"リアル”と感じてしまう自分の、
サラリーマンの業(笑)。
まあ、これほど露骨な職場はそうないと思いますけれど。

 ネガティブな面ばかりではありません。
スクープを追う仕事仲間との連帯感、
いい仕事には無言の賞賛をしてくれます。
対立していた上司と飲んで腹を割って話すことで
いつの間にか関係が改善していたり。。
そして、誰もが自分の仕事に対して責任感や自信と誇りを持っている。
ダーティな仕事のように描かれている販売局長までもが、です。
熱いです。
 これを観て目頭が熱くならないオヤジはいないでしょう(笑)

 また、「クライマーズ・ハイ」は
インテリやくざな新聞業界の実態も見せてくれます。
独裁的で秘書にセクハラしている社長、
新聞を売っているのは自分達で、
記事の内容など、どうでもよいと思っている販売局長など。。。
文化的なイメージのある新聞社のダークな面が興味深いです。

 クライマーズ・ハイとは、岩登りに集中するあまり、
異様な高揚状態になることで、
この時は恐怖を忘れ、自身の危険な状況も気にならなくなるそうです。
 原作を読んでいなかったので、
最初は、記者が墜落現場を探して、
がむしゃらに山中を彷徨する話なのかと思っていました。
 しかし、この物語の主人公悠木は日航事件全権ディスクなので、
彼自身は一度も現場に行かず、編集室で取材班にを指示し紙面を作っていくのみです。
そして部下がスクープネタを掴んだとき、
悠木は密かに部下に裏を取らせ、スクープを打とうと画策するのですが。。。
ここがなかなかスリリングで、
スクープの裏を取るとはこうするのかと、感心させられました。
 映画パンフにはクライマーズ・ハイについて、こんなセリフが載っています。
  「解けた時が怖いんです。
  溜め込んだ恐怖心が一気に噴出して、一歩も動けなくなる。」
このセリフと映画クライマックスで、タイトルの意味を納得できた気がします。
                        (☆☆☆)
[PR]
by am-bivalence | 2008-08-03 20:13 | 人間ドラマ | Comments(2)

screen70 ヒトラーの贋札

 重い史実にフィクションを加えエンターテイメントにしたサスペンス 公式サイト

 (以下、ネタバレ)
 この映画はエンドタイトルの最後で原作者について触れています。
事前になにも情報を持たずに観ていたので、
その名前を見てちょっと驚きました。
原作者が映画の主人公で好意的に描かれていたサリーでなく、
収容所でトラブルメーカーになっていたブルガーだったからです。

 この映画は、実際に収容所で贋札造りに加担させられた
ブルガーの体験記を基にしていますが、
いろいろ映画的にフィクションを加えているようです。
原作を読んでいないので、詳しくは分かりませんが、
映画プログラムにブルガーのインタビューが載っていて、
その中でフィクションの部分について触れられています。
 インタビューを読むと、映画は基本的に史実ですが、
収容所内のエピソードの幾つかはフィクションであるのがわかります。
 実際のブルガーは映画で描かれたように
あからさまに抵抗したわけではないそうで、
そんなことをしたら、すぐ殺されていたと語っています。
 この辺りに、映画の意図が伺えます。
自分達が生き延びる事と、贋札によってナチに協力することの
ジレンマを強調したかったのでしょうが、
実際の収容所生活は、偽造がナチへの協力になることが分かっていても、
生き残ることに懸命で、悩む余地はなかったのでしょう。

 また、収容所を解放したのはアメリカ軍だったそうで、
ドイツの敗戦にまぎれてユダヤ人収容者が蜂起するのもフィクションのようです。
自分達がユダヤ人である証拠に識別番号の刺青を示すのも
うまい演出、ということでしょう。
 ナチ支配下では非協力的なブルガーが
仲間を危険に曝していると非難されていたのに、
開放後はナチに抵抗した勇士として祭り上げられるのも、
戦後の混乱や人間の変わり身をよく現しているように思います。
 史実にフィクションをブレンドして、サスペンスフルな映画として観せてくれました。
                                  (☆☆☆)
[PR]
by am-bivalence | 2008-06-21 17:39 | 人間ドラマ | Comments(0)
 黒澤監督、期待を裏切り御免! 公式サイト

 「映画生活」などのクチコミを見ていると、
この映画は賛否両論で、どちらかと言うと否が多いようです(^^;。
 面白いのは、評判より良かったと思う人は
オリジナルの黒澤作品を観ていない人が多く、
ひどいと言っている人は、オリジナルを観ていて、
黒澤版を評価している人が多いことです。
 私はオリジナルの黒澤作品を観て傑作娯楽映画と思っている一人ですが、
なぜこんなに評価が分かれるのか、実際に観てみて、なんとなく分かりました。
 オリジナルを知らないで、このリメイク版をそこそこ楽しめると思った人、
あなたが面白いと思ったところはたぶんオリジナルの残った部分です。

 「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」は、
中途半端に雪姫が悩み、シリアスにしようとした分、
オリジナルの黒澤版が持っていた、娯楽時代劇の爽快さを失いました。
戦国時代に現代の民主主義的価値観を持ち込まれても。。。ねえ。
 「ローレライ」といい、樋口監督は時代考証をあまり重視しないようです。

 換骨奪胎で、オリジナルを改悪している部分は、
関所を突破する部分にも現れています。
六郎太の機転で切り抜けるところを、リメイク版は
男色趣味を絡めた、後味の悪いエピソードを追加しています。
 キャラクターの変更にも疑問が残ります。
ジョージ・ルーカスがレイア姫のモデルにした気の強い姫、雪姫は、
リメイク版では後半以降、信念と気丈さを失って、
つい彼氏に頼ってしまう、アニメおたく好みのような女の子に変わってしまいます。

 黒澤作品のリメイクというと「椿三十郎」が記憶に新しいですが、
リメイクに対する両者のアプローチは全く逆で、好対照です。
「椿三十郎」がオリジナルを忠実にトレースしたのに対し、
「隠し砦…」は大幅に改編し、現代的なアレンジに挑戦しています。
チャレンジングなのは買いますが、
どちらが良かったかは、映画が示していると思います。
「隠し砦…」は図らずも、森田監督のやり方が保守的ながら
正しかったことを証明してしまいました。
 黒澤明、橋本忍といった、かつての名匠達が作り上げた傑作を、
凡百の人間が寄ってたかって作り直しても、
良いものには成り得ないということでしょうか。

 樋口監督、最高に面白い映画を創ろうという気概がおありなら、
リメイクや原作に頼らずに、オリジナルに挑戦したらいかがでしょうか。
                               (☆)
[PR]
by am-bivalence | 2008-05-31 10:07 | 時代劇 | Comments(0)
 演じていたはずが。。。の、哀しい官能ラブストーリー  公式サイト

 最近、今頃になってユン・チアン「ワイルド・スワン」を読みました。
この小説は、清朝末から文化大革命まで、激動の中国社会を生き抜いた
母娘三代に渡る実話なんですが、これがとても面白く、夢中で読み終えました。

 ユン・チアンの語り口はとても上手く、自分たちが見てきた歴史を
中国史の知識のない人でも分かりやすく伝えてくれます。
 纏足をはじめ、清時代の古い生活習慣、
日本による植民地支配の圧政から、その後の国民党の暴政、
中国共産党が民衆の支持を得て台頭してくる様、文化大革命の支離滅裂さなど、
中国人が悪政に苦しんだ歴史を知る一方、
権力を私的に流用しても全く後ろめたさを感じない
中国人のメンタリティまで分かって、興味深いものでした。

 この「ワイルド・スワン」の中で、ユン・チアンの母が学生時代、
反国民党活動で共産党の諜報員をしていた話が出てきます。
こんな逸話を読んでいると、
「ラスト、コーション」で学生たちが反日運動のあまり、
傀儡的中国人を倒す計画を実行しようとしたストーリーも
あながち絵空事のようには見えません。
バックに組織があれば、ですが。。。

 「ラスト、コーション」は日本の植民地支配時代に
日本政府に取り入った重要人物を暗殺するため、
身分を偽り体を張って近づく女子大生の物語です。
 タイトルの「ラスト」はlastでなく、lust=色欲のことで、
この言葉は映画「セブン」で犯罪のモチーフとなった、
キリスト教、七つの大罪の一つ「色欲」でもあります。
中国語原題「色、戒」の英語直訳ということでしょう。
大胆なベットシーンが話題を呼び、中国ではヒットしたそうです。
 日本でも評判が悪くないので観てみたんですが、
正直、観終わって、もう一つピンときませんでした。
どうも私はこの映画に「ブラックブック」のようなサスペンスを
期待していたのが、いけなかったようです。

 この映画、ストーリーが複雑でないので、
サスペンスものとしては158分は長すぎでしょう。
また、サスペンスに必須のどんでん返しもほとんど見当たりません。
話題の濡れ場も冗長でしょう。
 なのに158分もの長さになったのは、映画の本質がラブストーリーであって、
ワンとイーの関係の変化を描く事に力点が置かれていて、
そこが評価されている点のようです。

 植民地支配する日本に取り入って利権を得ているイーは、
中国人にとって裏切り者であり、恨んでいる中国人も多いはずのに、
そういった面は映画ではほとんど描かれていません。
映画で描かれるイーはワン視点からがほとんどで、
ワンが見たイーは、普段は紳士で優しく、
ベッドでは暴君です(笑)。
 そんなイーをワンは、
"嘘をすぐ見抜くので、全力でぶつかり受け止めなければならない"
といったことを言っています。
そこで濃厚なベットシーンを詳細に描くのも意味を持つ、という訳です。

 印象的な日本料亭のシーンでは、
イーが日本側にいるといっても日本人と親密にしている訳ではなく、
中国人にも日本人にも受け入れられていないイーの孤独を
ワンが理解することになります。
ここでのイーへの共感が、ラストのワンの行動を生むのでしょう。

 (以下、ネタバレ)
最後は、唯一信じていた女性にも、組織にも
裏切られていたことを知ったイーの悲哀が切ないです。
 タイトル「ラスト、コーション」は原題の直訳だと思っていましたが、
実はワンを破滅させるクライマックスの
"最後の警告"と掛けていたのかも知れません。
                     (☆☆)
[PR]
by am-bivalence | 2008-05-22 00:10 | ラブストーリー | Comments(0)

screen63 ノーカントリー

いつ襲ってくるかわからない死をめぐる秀作スリラー 公式サイト

 かつて映画には、ピカレスク物とか、
バイオレンス映画とかいったジャンルが一定の人気を保っていました。
「俺たちに明日はない」とか、
サム・ペキンパー+スティーブ・マックイーンの「ゲッタウェイ」、
ギャング物ではチャールズ・ブロンソン「バラキ」などなど。
日本でいえば深作欣二の任侠物とか、
松田優作「蘇る金狼」なんていったところでしょうか。
 しかし、「スターウォーズ」の大ヒットで、
映画は見たことのない映像をSFXを駆使して
ティーン・エイジャー達に見せる健全な娯楽になり、
バイオレンス映画は衰退していきます。

 それでもバイオレンス映画は途絶えたわけではなく、
このコーエン兄弟の「ノーカントリー」も、
そんなバイオレンス映画の脈流が生きています。
 ただ「ノーカントリー」が違うのは、
マックイーンのようなヒーローがいないこと。
そして、暴力よりも知性を感じさせることではないでしょうか。
 例えば、主人公モスが麻薬組織に追われて川に飛び込み、
下流に泳ぎ着いた後、追ってきた猟犬を拳銃で迎え撃とうとするシーン、
濡らしてしまった拳銃の扱い方には、なるほどと感心させられます。
夜の街で、殺し屋シガーとの銃撃戦の仕方なども、
ベトナム戦争を生き抜いてきたモスらしい、
考えた戦い方をしています。

 しかし何と言ってもこの映画の一番の見所は、
最悪の殺し屋、シガーの恐ろしさ、不気味さでしょう。
無感情に、どんな相手も平然と殺してしまう殺し屋。
コーエン兄弟の演出は冴えわたっています。
いつ殺人者の牙を剥くか分からないシガーと店主の会話の緊張感、
容赦なく撃ってくる、姿の見えない殺し屋相手に応戦する恐怖など、
シガーの絡む場面はどれも、緊迫感がみなぎっています。
 シガー演じるハビエル・バルデムは
「海を飛ぶ夢」の全身不随の主人公を演じた俳優で、
とても同じ人が演じているとは思えない変貌ぶりです。

 原作のタイトルは「血と暴力の国」だそうで、
これがこの映画に含まれたテーマをよく表しています。
最後、追われる者と追う殺し屋、その二人を追う保安官の
三つ巴の戦いになるのかと思えば、
あっさり観客の期待を裏切る意外な結末が待っていて、
そこがなんとも文学的なように感じました。
 劇中語られる、簡単に人を殺す最近の犯罪の異常性や、
最後に保安官の語る夢の光景などで、
映画に社会批判的、哲学的な意味を含ませていて、
単なるスリラーに終わらなかったのが、
アカデミー作品賞を取った秘訣なんでしょう。

 まあ、難解な哲学的意味はよく解らなくても、
映画的面白さを十分楽しめる作品でした。
                       (☆☆☆☆)
[PR]
by am-bivalence | 2008-05-15 23:22 | サスペンス・スリラー | Comments(0)