劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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screen3 クラッシュ

 見る者に差別の根源を味合わせる傑作  公式ホームページ

2006年に劇場で見たベスト映画の一つとして、
クラッシュを取り上げてみました。

 この映画が出色なのは、ほとんどの登場人物が
良い人が良い人のまま、悪い人が悪い人のままでいないことです。
映画・ドラマに限らず、物語では原則として
登場人物の善悪が決まっているものです。
現実はそんなことないわけで、
これはいわば"ドラマ文法"なんです。

 「クラッシュ」は"ドラマ文法"を破ることで、
わざと観客を混乱させます。
この混乱の原因は、「先入観」です。
善人を善人と、悪人を悪人と思い込む
観客自身の「先入観」が混乱を生むのです。
そして「先入観」は「偏見」を生み、
「偏見」が「差別」を生みます。
それがこの映画のテーマ「人種差別」になるんだと思います。

 つまりこの映画は、自分は差別などしないとか、
人種差別とは関係ないと思っている観客にも、
「人種差別」の根源となる「先入観」を
観客自身のはらわたの中からつかみ出し、
突きつけてしまうのです。
この映画、見る者が試されます。

 もう一つ、登場人物の多さもこの映画の特徴ですが、
人物同士の関係、ストーリーは混乱せずに最後まで追っていけました。
これはちょっとすごいことだと思います。
複数の主人公が登場する群像映画は、エピソードが交錯して、
途中でストーリーを追いきれないことが間々あるからです。
原案、脚本、監督のポール・ハギス、並々ならぬ技量です。
ミリオンダラー・ベビーといい、今後もちょっと注目です。

 と思っていたら、ポール・ハギス、
新作007に人間ドラマを持ち込み、成功させました。
                         (☆☆☆☆)


 参照映画:「007 カジノロワイヤル」 マーティン・キャンベル監督 2006年
   新ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグは
  公開前いろいろ物議をかもしていましたが、思ったほど違和感はなく、
  ポーカーフェイスの肉体派ボンドに仕上がっています。
   見終わると切なくなった、初めての007映画です。
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by am-bivalence | 2007-01-07 20:38 | 人間ドラマ | Comments(0)

screen2 武士の一分

 名匠山田洋次の人情"西部劇"  公式ホームページ

 「たそがれ清兵衛」は幕末下級武士の慎ましい暮らしぶりを丹念に描いた傑作でした。
クライマックスで 果し合いをする相手にもそれなりに事情があって、切るに忍びず、
それが切ない情感とリアリティを出していました。

 時代劇三部作となっていますが、
「隠し剣鬼の爪」、「武士の一分」は
「たそがれ清兵衛」と大きく異なる点がひとつあります。
善悪が明確なのです。
 
 「武士の一分」でキムタク演じる新之丞が果し合いする相手は
卑怯者で妻の仇であり、一命を懸けても倒したい相手です。
 にっくき悪人と決闘で対決する、
これって往年の西部劇の構図じゃないですか。
決闘後のカタルシスも同じです。
(「隠し剣鬼の爪」も同じ構図ですが、
こちらは西部劇でなく、「必殺仕置人」でした。)

 藩内で果し合いなどしたら、勝っても負けてもただでは済まないはずですが、
そこは名匠、きっちり押さえています。
ツッコミどころを作らないのはさすがです。
                    (☆☆)

(以下ネタバレ)
 ラストは、徳平の"飯炊き女を雇う"のセリフで読めてしまいますが、
それでも心が暖かくなる情感にひたれます。

 参照映画:「シェーン」アラン・ラッド主演 1953年
   説明の必要もない、西部劇の名作。
  ガンマンだけでなく、開拓農民にも焦点を当てていたのは
  西部劇としては"異色"なのでしょうか。
  そういえばこのテーマ音楽、「遥かなる山の呼び声」でした。
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by am-bivalence | 2006-12-30 22:30 | 時代劇 | Comments(0)
 映画の醍醐味は疑似体験であることを再認識させてくれた、
ハリウッド娯楽作とは一線を画す秀作
  公式ホームページ

 この映画をSFアクション映画と思って見た人は、
がっかりすると思います。
 だってSF映画なら必ず出てくるであろう、
未来テクノロジーのガチェットはほとんどないし、
人類に子供が生まれなくなった理由も、結局はっきり説明されずじまいですから。

 でも、この映画の価値は、SFではない点です。
近未来SFという比喩を使って、現在を写した物語なんです。

 次の世代が生まれなくなった絶望で荒廃した世界、
テロが頻発し、難民があふれ、貧富の差が拡大した世界、
民兵と軍の市街戦が始まるスラムは
現在のイラク、ソマリアといった
内戦状態の続く国家、"失敗国家"そのものです。

 クライマックス、弾丸の飛び交う市街戦を
1ショット撮影で駆け抜けていく臨場感は
圧巻です。
いつ頭を撃ち抜かれるかもわからない恐怖感を疑似体験させる迫力。
これは映画館で体験するべきでしょう。
他にも車内の場面など、撮影技術に工夫があります。
                            (☆☆☆)

  (以下ネタバレ)
 子供を取り返すため、戦場を駆け抜けた果てには、
小さな奇跡が待っていました。
激しく撃ち合っていた戦場で、新しい命を守るために、
敵味方関係なく全員が戦闘を止めるのです。
小さな命を守ろうとする崇高さと、その後もやはり殺し合いを続ける矛盾。
かけがえのない命は同じはずなのに。

 全編荒廃した世界が続き、
娯楽映画とは言えない重苦しさを湛えた映画です。
全国ロードショーより単館系で公開したほうがよかったんじゃないでしょうか。


 参照映画:「サルバドル-遥かなる日々-」 オリバーストーン監督 1986年
   中米エルサルバドルでの内戦の恐怖を 報道カメラマンの視点で追った力作。
   この頃のオリバーストーンの映画は面白かったのですが。。。

 参照書籍:「カラシニコフ」 松本仁一 朝日新聞社
   傑出した自動小銃カラシニコフを狂言回しにして、
  失敗国家と言われるアフリカ諸国での内戦の惨状を報告するドキュメント。
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by am-bivalence | 2006-12-30 02:45 | 人間ドラマ | Comments(0)