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劇場で観た映画の覚え書き


by am-bivalence
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SCREEN134 シチズンフォー スノーデンの暴露

 スノーデンと、アイヒマンと、人間の尊厳 公式サイト

 元CIA職員エドワード・スノーデンがアメリカ国家安全保障局(NSA)やCIAが
国民全てのネット、メール、電話を盗聴傍受していることを暴露したスノーデン事件。
全市民の通信を傍受し情報を抜き取る、それはまさに「ダークナイト」のクライマックスでバットマンが行った事を現実にアメリカ政府が行っていることになります。
しかもこれはアメリカだけでなく日本を含む世界中で行われているといいます。

 「シチズンフォー」はこの事件を扱ったドキュメンタリー映画ですが、
この映画のすごいのは、事件が公になる前スノーデンが暴露のためにジャーナリストと接触するところから撮影されている事です。初めて香港のホテルでスノーデンとグリーンウォルドらが話し合う時、スノーデンの盗聴、盗撮に対する極度の警戒ぶりに驚かされます。
彼の話を聞くにつれ、グリーンウォルドやポイトラス監督も疑心暗鬼になっていくところなど、スパイ映画さながらの緊迫感を感じさせます。

 シチズンフォーとは、スノーデンがポイトラス監督に接触するために使ったコードネームだそうです。スノーデン以前に同様な告発をした人物が3人おり、4番目の市民という意味を込めたといいます。
 この暴露でスノーデンはスパイ罪に問われ、アメリカに戻れずロシアに一時的な亡命の身になりました。
彼は祖国の裏切者なのでしょうか、真に国を憂いた愛国者なのでしょうか。
いや、彼は国家の非人道的逸脱に疑問を抱き、人間としての良心に従っただけなのではないでしょうか。

 罪を問われるスノーデンを見ていて、アイヒマン裁判を思い出しました。
「ハンナ・アーレント」や「アイヒマンショー」として映画にもなっている元ナチス親衛隊アドルフ・アイヒマンの裁判です。
 アイヒマンは強制収容所へのユダヤ人輸送を指揮し何百万人も死に追いやった人物で、モサドに捕えられイスラエルで裁判にかけられました。
元ナチス親衛隊員がどれほど冷酷で狂信的な人間か世界が注目するなか、現れたアイヒマンはいたって平凡な人物でした。アイヒマン自身は反ユダヤ主義では無かったといいます。彼は受けた命令をただ官僚的に粛々と実行したのでした。
彼を見たハンナ・アーレントはアイヒマンを「悪の凡庸さ」と評し、命令により誰でも彼と同じ行動を取りうることを指摘します。
 これに対し、スノーデンは非人道的命令をアイヒマンとは真逆に拒否する行動に出たのです。
これはなかなか出来ない事ではないでしょうか。
一般人のネットのやり取りを監視するのと、ホロコーストのような虐殺に加担するのとは次元が違うとも思われるかも知れませんが、いずれも権力によって人の尊厳を踏みにじるという点では同じです。

 組織の命令で非情な行動を要求される、これは組織の中にいる人間がしばしば陥るジレンマです。
非人道的な命令にも組織の論理に従って行動するか、自身の価値観で行動するのか。
組織に従っても、自身の価値観で行動しても、罪を問われるなら、
私達はどうするでしょうか。
by am-bivalence | 2016-07-10 00:45 | ドキュメンタリー | Comments(0)